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新版党史編さんへの強い意向
党中央は2月、「中国共産党簡史」新版を編さんし全国に配布した。
習氏は以前から歴史が重要であるとの中国の故事成語、「他国を滅ぼすには、まず彼らからその歴史を取り去ることだ(滅人之国、必先去其史)」を好んで用い、党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史の「四史」学習の重要性を強調しており、編さんには習氏の強い意向がうかがえる。
習氏礼賛の一方、文革関連の記述は「大幅削減」
新版は10章、531ページ。最終章が「中国特色社会主義、新時代に入る」で、「18大」、「中国夢」、「大国外交」など習政権以降の出来事や用語について記述。党百年の歴史のなかで習政権は2012年からのわずか9年だが、全体の4分の1以上を占め、習氏を持ち上げ(棒習)、礼賛(頒習)する一方、文革関連の記述は大幅に削減された。
具体的には、これまでは「社会主義建設の道の困難な探索」「文革10年内乱」で文革関連の詳細な記述があったが、新版ではこれが第6章3節の「社会主義建設、曲折の中で発展」に移され、文革を扱う独立した章がなくなり、「大躍進」「人民公社化運動」などが目次から消えた(図表1)。さらに、これまでは「全党整風(思想・活動の点検・矯正)」「破四旧(文革初期に主張された旧思想、旧文化、旧風俗、旧習慣を打ち破るとのスローガン)」や「林彪事件」などが詳述されていたが、新版ではわずか1ページに圧縮される一方、交通網整備や核・宇宙開発、国交回復が相次いだことなど、当時の成果が7ページにわたり詳述された。
鄧小平時代の1981年、11期第6回党中央委員会全体会議(6中全会)での「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」、党史上2番目の通称「歴史決議」や旧版党史は、「毛沢東が党や政治の状況判断を誤った」「党内で個人独裁・崇拝が進行」「毛沢東が(文革の)主要な責任を負っている」と明確に記述していたが、新版は「毛沢東は社会主義の現実を不断に観察し、資本主義の弊害が復活することに警鐘を鳴らし、党や政府内の腐敗・特権や官僚主義などをなくすために、考え闘い続けた。しかし、社会主義建設発展の規律について明確な認識がなく、正確な思想に基づく社会主義建設を貫徹できず、最終的に内乱が醸成された」とし、毛沢東や文革を正面から否定することを避けた。
①文革や毛沢東の誤りを認めて歴史上の汚点にすることは避けたい
②党内に経済の市場化や国際協調を重視する改革派がいる中で、習氏は保守的な立場にあり、政治闘争上、党史編さんを利用した
という見方がある。②はかつて毛沢東が「六大以来」(1941年)〜「若干の歴史問題に関する決議」(第1の「歴史決議」、1945年)と一連の文書を編さんして自らの権威を高め、鄧小平が「歴史決議」で文革を批判して改革開放を進めようとしたように、中国政治の歴史のなかで繰り返されてきたことだ。
他方で5月、北京紅博会や烏有之郷など9つの左派団体が予定していた「五一六通知」(注2)の55周年紀念行事が、おそらく当局の圧力で中止された。いたずらに文革に対する人々の関心や文革を反省・批判する声を高めたくない、内外で「第2次文革の到来」の声が高まることを避けたいということだろうが、文革の名誉回復(平反)やその考え方を生かした改変(翻案)を図る勢力と、それに反対する勢力の党内でのせめぎ合いがうかがえる。
(注2)文革の起点とされる1966年5月16日の党政治局拡大会議が採択した党中央通知。
習氏の狙いは「定于一尊」
党中央は新版党史発刊に合わせ「党史学習教育動員大会」を開催。「習近平新時代中国特色社会主義思想」を学び、2016年党政治局会議以来党が提起している「4つの意識」と「4つの自信」の強化を通じる「2つの擁護」貫徹を奨励(注3)。
(注3)「政治、大局、核心、模範(看齐(カンチー))」の「4つの意識」、「中国特色社会主義の道、理論、制度、文化」に対する「4つの自信」、「習氏の党での核心的地位、党中央の権威と集中統一的指導」の「2つの擁護」。
新版党史や習近平著「中国共産党歴史論」など計4冊を指定書にして党史の学習教育を展開し、さらに5月、党中央弁公室が四史教育を強化する通知を発出。北京にある党歴史展覧館は6月下旬、19大で習氏が提起した「初心を忘れず、使命を胸に刻め(不忘初心、牢記使命)」をテーマにした歴史展を開催。
百年を毛沢東の第1段階(1921〜49年)、第2段階(1949〜78年)、鄧小平、江沢民氏、胡錦濤氏の第3段階(1978〜2012年)、習氏の第4段階(2012〜)に分け、第4段階を「中国特色社会主義新時代推進、小康社会全面建設、社会主義現代化国家建設起動」として最も詳細に紹介した。
「習近平思想」普及のため、外交部が2020年7月に「習近平外交思想研究センター」、さらに21年7月に発展改革委員会が「習近平経済思想研究センター」を設立するなど、17年以降、習氏の名前を冠した研究センターの設立が相次いでいる(17年10、20年1、21年7、計18)。
これらを通じ、故事成語で言う「定于一尊」、つまり、あらゆる思想や道徳などの基準を決める最高権力者の地位を確かなものにしようとする習氏の狙いがみえる。
次回では、権力集中を強める習政権に死角はないのかを探っていく。
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