※写真はイメージです/PIXTA

2022年秋に開催予定の第20回党大会(20大)。習近平国家主席の3期目続投が確実視されているが、その一方、水面下では「様々な駆け引き」が活発化している様子もうかがえる。20大に向けて起こり得る政治シナリオを検証していく。

20大に向けての「3つのシナリオ」

病気などなんらかの事情で習氏が業務を遂行できなくなるケースを除くと、可能性だけ考えれば、次の3通りのシナリオがある。

 

①国家主席の2期10年の任期制限を廃止した習氏が3期目に入る

②クーデター(政変)で習氏が失脚

③慣例に従い習氏が自発的に退任

 

習氏が自らの安全を考え、また権力基盤が安定し院政を敷くことができると判断して③を選択する可能性が完全に消えたとは言えないが、以下、①、②について検討する。

①習氏が続投、第3期目突入の可能性

現時点では「①国家主席の2期10年の任期制限を廃止した習氏が3期目に入る」の可能性が最も大きいとの見方が一般的で、もはや習氏続投を疑う者はいないとの見方まである。この場合、潜在的後継者(接班人)が問題となる。14大以来の慣例では、1、2期前の党大会で常務委員入りし訓練期間を経るため、20大で新たに誰が常務委員に選出されるかだ。具体的候補として陳敏爾重慶委書記、丁薛祥党中央弁公庁主任、李強上海委書記、胡春華副首相らの名前が取りざたされている。

 

陳氏と李氏は浙江、丁氏は上海に連なる習氏側近と言われる。胡氏は団派と呼ばれる共産主義青年団(共青団)出身で李氏に近く、失脚した孫政才元重慶書記とともに次世代のホープと言われて久しい。これら候補は現在50歳台後半〜60歳台前半で、習氏が3期目を終えるときには60歳台半ば近く〜後半の年齢になる。

 

過去5回の党大会直前には必ず党政治局委員クラスの「副国級」を汚職などの罪で引きずり下ろす(拿下)動きがみられたことから、同様の動きを予想する見方がある。党大会に向け、自らが最高権力者であることを示す戦略で、15大(1997年、江沢民氏再任)前に北京書記、16大(2002年、胡錦濤氏就任)前に人大副委員長、17大(07年、胡氏再任)前に陳良宇上海書記、18大(12年、習氏就任)前に薄熙来重慶書記、19大(17年、習氏再任)前に孫政才重慶書記が失脚している。

 

9月末〜10月初、20年4月以来取り調べを受けていた孫力軍元公安部副部長(副大臣)が「双開」、つまり党籍はく奪と公職追放の2つの「開除」処分、傅政華前司法部長が重大規律違反容疑で取り調べを受けていることが明らかになった(注1)。いずれも副国級ではないが、背後に江沢民派No.2と目される曽慶紅元国家副主席に連なる政治局委員の存在があるというのが大方の見方だ。

 

(注1)2020年7月以来、公安、司法などいわゆる政法系統の汚職摘発が進められている。2021年、江蘇省や河南省を始め、各地で政法委書記・副書記クラス30名近くが逮捕され、取り調べを受けている。特に江沢民氏の出身地江蘇では、江氏が倒習政変を企てたと噂があり、2000名近くの政法関係役人、政法以外で約5700名が調査・処分を受けたとされる(2021年11月26日付希望之声、24日付新唐人)。

②習氏が「クーデターで失脚する」可能性

本連載中編で述べた死角を考えると、②が起こる可能性もゼロとは言い切れない。党中央理論誌「求是」は9月、「党の軍に対する絶対的指導」の重要性を強調した論文を掲載したが、そのなかで過去の問題事例として異例にも、真相が不明で議論のある「林彪武装政変計画」を挙げた。習政権前の2007〜08年ごろ、林彪の名誉回復を図る動きもあったことから、こうした形で言及されたことは、軍内部に同様の人物がいることを示すものではないかと憶測を呼んだ。

 

「求是」はまた、「江蘇省の元刑事偵査局長と重慶元公安局長が南京での紀念行事で指導層にはずれた(不軌)企みを計画したが、セキュリティ部門が犯罪行為を阻止した」とするメディア(網易、捜狐他)の記事を紹介。記事に具体的言及はないが、2014年からいわゆる「南京大虐殺」紀念行事が行われ、常務委員級が出席したのは2014、17年の習氏だけで、しかも両名は17年紀念行事の保安責任者だったことから、17年の習氏のことと推測されている。

 

10月以降も、党の「学習時報」や官製メディアが立て続けに明代の「奪門の変」や、かつて毛沢東が文革前、路線闘争をしていた周恩来、劉少奇、鄧小平、彭真の4名に対し、「後漢記」に収録されている「黄琼伝」と「李固伝」を読むことを勧めたことを紹介する文を掲載。また西漢時代の「治安策」を「中央の権威を断固維持し、諸侯の分裂的思想に反対した」中国歴史上最も重要な政治論文の1つと紹介。何れも歴史のなかの政変をめぐる権力闘争を扱ったものだ。

 

上記の公安部副部長らの容疑は「政治的野心の膨張」「ギャング集団を活発に形成(大搞団団伙伙)」と伝えられており、かつての周永康元常務委員や薄熙来氏の罪状のなかでもみられた「政変」を意味する表現とされる。10月、習氏が全人代工作会議で「国家の政治制度が民主的で有効かどうかを評価するには、主として法に基づいた秩序ある指導層交代が行われているかをみるべき」とした発言も関心を呼んだ。

 

これらは政治、公安、軍内部になお習氏の不安要素になる動きがあることを暗示するものかもしれない。ただ政変は一定の政治・軍事集団を巻き込むことが必須。習氏は上記の陳氏や丁氏を始め、政治局内にかつて党委書記を務めた上海や浙江、省長を務めた福建などに連なる人脈を配置している他、軍事関係も概ね掌握していると言われる。政変の可能性は現時点ではきわめて小さいと考えるのが自然だろう。

 

いずれにせよ、習氏が国家主席任期制限を撤廃し権力集中を強めたことで、過去40年間続いた安定的で周期的な政権移行と異なり、20大に向けて中国政治に不確実要因が生じている。

 

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