米国株式市場は「資金調達」から「所得還元」の場へ
では、米国では投資がおろそかであったかと言うとそうではなく、この6年間に利益の1.9倍に相当する11.78兆ドルが投資に振り向けられ、減価償却9.18兆ドルとの差額2.6兆ドルは、社債発行中心の債務増加3.0兆ドルによって賄われてきた。企業の財務構成(例えば自己資本比率)は低下してきたのである。
この株価本位(or株主重視)の企業の財務行動は、米国株高のほぼ唯一のエンジンであった。リーマンショック以降11年間に米国の株価(SP500指数)は6倍強に上昇したが、この間の投資主体別に見た累積株式純投資額[図表2]を見ると企業(非金融)が4.1兆ドル、と家計0.9兆ドル、海外1.0兆ドル、金融機関・年金-1.8兆ドルを大きく上回っており、株高はもっぱら自社株買いによってもたらされたといえる[図表3]。
この株高を中心とした資産価格の上昇が、家計の純財産額を大きく押し上げ、その資産効果が、米国消費増加の牽引車になっている。
このように、米国では家計の貯蓄が銀行貸し出しや証券発行によって企業に投資され、経済の循環を引き起こすという旧態依然たる資金循環が全く変わってしまっているのである。
端的に言えば、
1.株式市場が企業の資金調達の場から所得還元の場になった
2.将来の投資を決める金融ポートフォリオは、昔は銀行の融資ポートフォリオであったが、今は株価(株式の時価総額)による市場ポートフォリオになっている
3.家計貯蓄の7割は株式・投信であり、資産価格上昇は最大の貯蓄増加要因になっている
4.経営者は株価によって評価判定される
等が定着している。
その過程でバブルと見える資産価格の高騰や、値ザヤ稼ぎを狙った投機も横行し、鉄火場の様相も見られる。
「見えていない」日本の経済評論家
岩井氏の言う「過度の株主重視による資本市場の機能不全」は、米国では日本などよりはるかに進行しているという現実があり、日本はだいぶ遅れて後を追っているという構図である。
この米国の金融市場の在り方を米国国内で批判しているのは民主党のエリザベス・ウォーレン議員など、左派(progressive)の一部であり、イエレン財務長官をはじめ、大半の学者・エコノミストは問題視していない。それどころかQE、ゼロ金利など積極的金融政策を通した、資産価格の押し上げ政策を支持している。
金融・経済では、古い教科書が前提にしている過去の実態と、ダイナミックに姿を変えている進行形の現実とのギャップが極端に大きくなっているのである。
岩井氏のような観点からすれば、米国株式は官民共作のバブル生成の真っただ中であり、金融危機に向かう過程にある、と見えてくるであろう。投資家としても、この両者の見解に傍観を決め込むことはできない。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】