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連載ニッセイ基礎研究所レポート・インサイト【第44回】

タイ経済:21年7~9月期の成長率は前年同期比0.3%減…感染第3波の深刻化によりマイナス成長に転落も、感染状況の改善で再び景気回復基調に

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タイ経済:21年7~9月期の成長率は前年同期比0.3%減…感染第3波の深刻化によりマイナス成長に転落も、感染状況の改善で再び景気回復基調に (写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月16日に公開したレポートを転載したものです。

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タイ経済:21年7~9月期の成長率は前年同期比0.3%減

2021年7~9月期の実質GDP成長率は前年同期比0.3%減※1(前期:同7.6%増)と低下したが、市場予想※2(同1.3%減)を上回る結果となった(図表1)。

※1 11月15日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2021年7~​9月期の国内総生産(GDP)を公表した。

※2 Bloomberg調査

 

[図表1]タイの実質GDP成長率(需要側)
[図表1]タイの実質GDP成長率(需要側)

 

7~9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費と外需の悪化が成長率低下に繋がったことが分かる。

 

民間消費は前年同期比3.2%減(前期:同4.8%増)と落ち込んだ。費目別に見ると、食料・飲料(同2.7%増)や住宅・水道・電気・燃料(同3.0%増)、通信(同2.2%増)、保健衛生(同15.1%増)の増加が続いたものの、交通(同19.6%減)と娯楽・文化(同9.1%減)、レストラン・ホテル(同16.0%減)が減少に転じると共に、衣類・靴(同8.0%減)が低迷した。

 

政府消費は同2.5%増(前期:同1.0%増)と小幅に上昇した。

 

総固定資本形成は同0.4%減(前期:同7.6%増)と減少した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同2.6%増(前期:同9.2%増)と鈍化した。民間設備投資(同3.7%増)が増加傾向を保ったものの、民間建設投資(同0.5%減)が低迷した。また公共投資も同6.0%減(前期:同4.1%増)と減少した。公共建設投資(同6.2%減)と公共設備投資(同5.3%減)がそれぞれマイナス成長となった。

 

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲8.5%ポイントと、前期の▲1.4%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず財・サービス輸出は同12.3%増となり、前期の同27.7%増に続いて二桁成長となった。財貨輸出が同12.3%増(前期:同27.7%増)と好調を維持すると共に、サービス輸出が同11.8%増(前期:同0.1%増)と大きく上昇した。一方、財・サービス輸入も同27.8%増(前期:同30.3%増)と大幅な増加が続いた。

 

7~9月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主に第二次産業の落ち込みが成長率低下に繋がった(図表2)。

 

[図表2]タイの実質GDP成長率(供給側)
[図表2]タイの実質GDP成長率(供給側)

 

まず農林水産業は前年同期比4.3%増(前期:同1.9%増)と増加した。主要作物のコメやゴム、キャッサバがけん引したほか、畜産や漁業・養殖業も増加した。

 

鉱工業は同2.0%減(前期:同14.2%増)と、2四半期ぶりのマイナス成長となった。まず主力の製造業は同1.4%減(前期:同16.9%増)と減少した。製造業の内訳を見ると、外需の拡大が追い風となり自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同0.5%増)は若干プラスとなったが、内需の減少により食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同3.9%減)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同0.3%減)がそれぞれ減少した。また電気・ガス業が同2.6%減(前期:同0.8%増)、鉱業が同9.6%減(前期:同4.9%増)となり、それぞれ減少した。

 

全体の6割弱を占めるサービス業は同0.2%増(前期:同5.1%増)と僅かながらプラス成長を保った。サービス業の内訳を見ると、コロナ禍でホテル・レストラン業(同18.7%減)や芸術・娯楽等(同9.4%減)、建設業(同4.1%減)、管理及び支援サービス(同2.3%減)、運輸・倉庫業(同0.9%減)が減少に転じたが、情報・通信業(同5.8%増)や保健衛生・社会事業(同5.8%増)、金融・保険業(同3.5%増)、小売・卸売業(同3.3%増)、不動産業(同2.7%増)、教育(同0.5%増)は引き続き増加した。

7~9月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、4~6月期は新型コロナの感染拡大に伴い、タイ政府が外出・移動制限措置を強化したことにより2020年の実質GDP成長率が前年比▲6.1%と減少した。タイ政府は早期のウイルス封じ込めに成功して段階的に行動制限を緩めたが、本格的な経済活動の再開には至らずマイナス成長が続いた。今年4~6月期には前年同期の落ち込みからの反動増(ベース効果)によりプラス成長に回復したが、今回発表された7~9月期の成長率は前年同期比▲0.3%と再び減少することとなった。

 

7~9月期の成長率の低下は感染再拡大に伴う都市封鎖により国内の経済活動が冷え込んだ影響が大きいとみられる。タイでは今年4月から感染第3波が生じており、政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限するなど行動規制を次第に強化したが、1日あたりの新規感染者数は6月末の5,000人程度から8月中旬には2万人台を突破した(図表3)。

 

しかし、タイ政府は7月中旬に首都バンコクなど10都県(全77都県)で都市封鎖に踏み切り、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大したことで、感染状況は8月中旬にピークアウトし、その後は緩やかな改善傾向に転じている。7~9月期はこうした感染再拡大と厳しい活動制限措置が続いたことにより人流が減少(図表4)、国内経済にブレーキがかかることとなり、民間消費(前年同期比3.2%減)と総固定資本形成(同0.4%減)がそれぞれ減少した。一方、外需は順調に回復したため財・サービス輸出(同12.3%増)が好調を維持した。

 

[図表3]タイの新規感染者数の推移
[図表3]タイの新規感染者数の推移

 

[図表4]小売り・娯楽施設への移動量
[図表4]小売り・娯楽施設への移動量

 

足元においても感染第3波は収束したとは言えない状況にあり、当面は本格的な経済再開は難しいだろう。しかし、今後も都市封鎖の段階的な緩和と新型コロナウイルスワクチンの普及(直近のワクチン完全接種率は約5割)により感染状況は次第に管理可能な状態に落ち着き、タイ経済の回復ペースに勢いがつくと予想される。

 

タイ政府は11月から入国制限を大幅に緩和し、主要産業の観光関連業の回復を目指している。外国人観光客の受け入れを順調に増やすことができるかどうかが、タイ経済の回復を見極める上で重要なポイントになるだろう。

 

 

斉藤 誠

ニッセイ基礎研究所

 

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ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

著者紹介

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