(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●バイデン政権の経済対策実現に道を開くインフラ投資と新年度予算は、関連法案の審議が遅延。

●インフラ投資法案は上院で可決済みだが、民主党の中道派と左派が対立し下院の採決は進まず。

●民主党は予算規模を縮小して単独で関連法を成立させ、インフラ投資法の成立も目指す見通し。

バイデン政権の経済対策実現に道を開くインフラ投資と新年度予算は、関連法案の審議が遅延

米議会上院は8月10日、5年間で総額1兆ドル規模を拠出するインフラ投資法案を、賛成69、反対30で可決しました。また、同じく米議会上院は8月11日、2022会計年度(2021年10月~2022年9月)の予算決議案を、賛成50、反対49で可決しました。ただ、インフラ投資法案については、下院での採決が遅れており、2022会計年度予算については、歳出・歳入法案の議会審議が遅れています。

 

インフラ投資は、道路や橋、電気自動車(EV)充電設備、高速通信網などを整備する内容となっており、新年度予算は、子育てや教育支援、気候変動対策などを含み、10年間で3兆5,000億ドル規模を投じる内容となっています。これらはいずれも、バイデン政権が掲げる大型経済対策の実現に道を開くものですが、依然としてインフラ投資は実施されておらず、新年度予算も成立していません。

インフラ投資法案は上院で可決済みだが、民主党の中道派と左派が対立し下院の採決は進まず

インフラ投資の実施や、新年度予算の成立が遅れているのは、議会における民主党と共和党の対立だけではなく、民主党内でも左派と中道派の対立が続いているためです【図表】。そこで今回のレポートでは、これら対立の構図を整理し、この先、与野党および民主党内の協議がどのような方向に進み、インフラ投資と新年度予算の関連法案が成立するのか、考えてみます。

 

(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
【図表】民主党内の対立および民主党と共和党の対立 (出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

まず、インフラ投資法案については、民主党の中道派が推進していましたが、共和党の一部議員との超党派協議により、前述の通り8月に上院で可決されました。そのため、本来であれば、下院での採決もスムーズに行われるはずですが、民主党の左派は、新年度予算の歳出・歳入法案が可決されるまでインフラ投資法案に賛成しないとしており、採決は見送られたままとなっています。

民主党は予算規模を縮小して単独で関連法を成立させ、インフラ投資法の成立も目指す見通し

次に、新年度予算に関わる歳出・歳入法案について、民主党の左派は、予算決議の通り10年間で3兆5,000億ドル規模を強く主張していますが、中道派は規模の縮小を要求しており、こちらも民主党内で意見がまとまっていません。また、共和党も3兆5,000億ドル規模に反対しており、民主党が財政調整措置(現在、民主党は単独で予算関連法案の可決が可能)を使うなら、債務上限の引き上げも一緒に行うべきとの立場です。

 

なお、民主党内では現在、3兆5,000億ドルの規模を2兆ドル程度に縮小する方向で、調整が行われている模様です。中道派と左派が合意すれば、民主党は財政調整措置により、単独で新年度予算と債務上限引き上げの関連法を成立させ、インフラ投資法の成立も目指すと思われます。12月3日には、つなぎ予算の期限が到来し、債務も上限に達する見込みであるため、年内に予算成立、債務上限引き上げとなれば、年末の混乱は回避されます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国でインフラ投資や新年度予算の協議が進展しない理由』を参照)。

 

(2021年10月28日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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