日本の多くの中小企業経営は、自身の子どもや親族を後継者として引き継ぐことが一般的であり、親族内で事業承継ができていたため、後継者問題は起こりにくい状況でした。ところが現在、「社長の年齢が60代の中小企業のうち、約半数は後継者が決まっていない」(『中小企業白書』2020年版)といいます。深刻化する中小企業の後継者不足問題。連載第1回は「自社株式の贈与・相続問題」について見ていきます。*本連載では株式会社みどり財産コンサルタンツ代表取締役の川原大典氏が中小企業の事業承継について解説します。

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もし今、自分が死ねば自社株式はどうなるのだろう

中小企業経営者のオーナーシップの源泉であり、悩みの種の一つでもあるのが自社株式です。この自社株式、自分や家族の身に万が一の事態が生じたときのことを考えると不安に思う経営者も多いのではないでしょうか。

 

直系の子どもが後継者として自社に入ってきている場合などは、どんどん自社株式を贈与等して移動していけば良いのですが、身動きができないケースがあります。

 

例えば、社長には娘だけしかおらず、その娘も娘の配偶者も自社に関与していません。甥っ子が自社に入っていますが、社長は、後継者としては力の弱さを感じています。自社株式を娘に譲れば良いのか、甥っ子に譲れば良いのか、今はまだ判断ができません。社長は、もし今、自分が死ねば自社株式はどうなるのだろうかと考えました。

 

我々は、とりあえず遺言を作成して、自社株式の行先だけでもはっきりさせておくことを提案しました。遺言は、一部の財産についてのみ処分を決めておくこともできます。

 

娘に自社株式を相続させることにしました。

 

大きな相続税が予測され、娘は納税資金に困ります。納税資金を確保するために、自社株式の一部を自社に買い取ってもらうことが検討できます。しかし、自社に関与していない娘が会社にうまく交渉できるでしょうか。

 

法的な効力はありませんが、社長の希望を伝えるために、遺言に付言を付けました。その付言の中で自社に娘から自社株式を買い取ってもらいたいという希望を明らかにしました。

 

突然の不測の事態が生じなければ、将来において自社株式の移動先は娘でない可能性があります。社長の財産内容も変わっていて、社長の考えも変わっていることが想定されます。そのときは、遺言を書き直せば良いのです。

 

経営者の遺言は、書き直すことを前提に作成するという考え方がいいと思います。

後継者に子どもがいないときの自社株承継の問題点

既に後継者への株式移動が完了している場合でも心配事はあります。後継者が、結婚して配偶者はいるのですが、まだ子どもがいない場合です。

 

子どもができる前に後継者が亡くなれば、相続人は後継者の配偶者と後継者の親です。法定割合では、3分の2が配偶者の相続分になります。自社株式の多くを配偶者が相続することが想定されます。そうなると親は不安に思います。

 

この不安を軽減しようと思うと、後継者に遺言を書いてもらうしかありません。自社株式は親に戻るよう遺言を書きます。配偶者が遺留分請求をするかもしれませんが、お金で解決できます。

 

子どもができれば、遺言の内容を変えることになるでしょう。

 

若くても年を取っていても、自社株式の行方に不安を感じるのであれば、「とりあえず遺言」です。

 

遺言は、その人が亡くなったときに効力を発揮します。長寿化と医療の発展により、生きているときのリスクが大きくなってきました。

 

一般的には「認知症」リスクです。判断能力がなくなると契約行為ができません。自社株式の議決権行使ができません。会社運営に弊害がでます。

 

後見人制度を活用して議決権行使できる状態にすることも可能ですが、後見人制度では株式を積極的に処分することはできません。

 

若い方が事故や病気などで、身体が不自由になったり、判断能力が亡くなったりする可能性もあります。はやり、議決権行使や株式処分ができない場合が想定されます。会社運営に弊害がでます。

万が一に備える解決策となるのが「民事信託」

このような万が一に備える解決策は「民事信託」です。民事信託を設定していれば、受託者(後継者など)が議決権行使でき、会社運営を滞らせることがありません。また、処分も可能です。

 

信託するのは良いが、何事もないときには自分で管理運用したいという場合がほとんどだと思います。信託効力発生を意思能力を喪失したときとすることで解決できます。

 

あとは、任意後見契約をセットすれば完璧です。

 

どこまでやるかは、それぞれの判断ですが、万が一の時の方向性くらいは示しておきたいものですね。

 

 

川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長

 

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