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投資の過熱は未上場企業の割高な評価に
昨年、日本経済新聞に「未上場企業へ投資、活発 昨年5%増、最高の3717億円」という記事が掲載されていました。
記事によれば、2019年の国内の未上場企業への投資が活発で、2012年以降で最高の出資額になったとのこと。ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社や傘下の投資部門の動きが目立つそうです。VCなど投資会社やファンドによる未上場投資は前年から6割増の1,110億円、5年前の3.6倍だそうです。投資件数も427件となり、同5倍近くになったそうです。
しかし、投資の過熱は、投資対象の企業の価値に対して割高な評価にもつながっているようです。結果、IPOにあたって一般投資家による価値判断と大きく離れることもあるとのこと。中小企業のM&Aの場合も企業価値が割高に評価されているかもしれません。
中小企業のM&Aで企業価値が結果的に割高に評価されることがあれば、その原因は、十分なデューデリジェンスができないからだと思います。十分なデューデリジェンスができたとしても簿外債務のリスクは必ず残ります。ですが、そもそも十分なデューデリジェンスができない場合があるのです。
中小企業のM&Aでは情報開示が不十分
これは、中小企業M&A取引のほとんどが、売り企業の従業員にM&A取引の情報が開示されないまま進められることに原因があると考えています。
企業活動の細かい部分は従業員のほうがよく知っているということがあります。買収監査側は従業員に接触ができませんので、正しい情報を得ることができません。従業員の目を気にするあまり、その会社や工場、店舗の状況を実地調査できない場合もあります。
実地調査は、休みの日にやれば良いのですが、休日出勤が常習化しているような会社では「この日この時間は会社に来るな」ということを言いづらい場合があります。あるいは、365日営業の業態であれば、さらに24時間営業であれば致命的なのですが、実地調査ができない場合のほうが多いのではないでしょうか。
実地調査ができなければ、資産の実在性を確認することができません。設備の経年劣化の具合、修繕や再投資の必要性の有無などが分かりません。(それぞれの設備の専門家ではないので、そもそも分かりませんし、イメージすることもできません。)
売り企業の側のアドバイザーが売り企業側の経営者に気を使いすぎて、さまざまな制限をかけてくることもあります。結局与えられた情報しか得ることができなかったという結末になるパターンです。
スピード重視でデューデリをしないケースも
中小企業のM&Aにおいて、デューデリジェンスはやったほうがよいものです。しかし、確実ではなく、後からいろいろマイナス材料が出てくるという前提で結果を受け止めることが必要だと考えます。
先日、弊社が関与したM&A案件が無事成約しました。
A社が売り企業。A社の買い手として名乗りを上げたのがB社とC社。C社は当初見送りという判断でした。B社は大きな企業でA社の買い手として申し分ありません。B社はデューデリジェンスを行い、さまざまな検討を、時間をかけて行いました。B社の経営陣は株式取得に進みたい意向でしたが、B社の親会社から反対意見が出ました。B社は取引を断念しました。
B社の撤退と時期を同じくして、C社が再検討したいとの意向表明。C社にデューデリジェンスの実施を勧めたところ、C社の社長は「B社がいろいろ調べて問題なかったのだから、改めて調べる必要はない」との判断。それよりスピード重視。無事、A社はC社に引き継がれました。
これは例外的な事例だと思いますが、ときにはこのような判断も必要かもしれません。
川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長