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法人税の納税猶予は、単なる猶予にすぎない
政府のコロナ対策もほぼ出そろった印象を受けます。以下、事業承継と切っては切り離せない、法人の資金関連対策です。
2020年2月以降、1カ月程度の間に、収入が前年同期比で約2割減った事業者を対象に、法人税、個人事業主の所得税、消費税などの納税が1年間猶予されます。社会保険料も1年間猶予されます。
固定資産税の減免も決まりました。2021年度の課税で、収入が3カ月間で前年同期比30%以上減った場合は半額に、50%減ったら全額免除となります。
特別利子補給制度を併用することで実質的な無利子・無担保融資が用意されました。
不思議な感じがします。法人税等の納税猶予は、単なる猶予で納付は免除されません。
2021年の納付時に2年分の税負担が生じます。払えない企業が出てくることが想定されます。今後、猶予分をさらに分割して支払うなどの措置も出てくるかもしれませんが、事業者によってはかなり重い負担に感じることもあるでしょう。
固定資産税の減免は、すぐに始まるのかと思えば、2021年度の課税で一部又は全部が免除されるのだとか。今、まさに固定資産税の納付書が届いている時期です。事業者は、今の資金繰りをなんとかしたいということだと思いますが。
無利子・無担保で貸してもらえるのはありがたいのですが、いつかは返さないといけません。需要が消滅した部分の運転資金を借り入れるわけです。当面、なんとかしのいでも、その後の収益から過去の消滅した需要部分の運転資金借入金返済を捻出するのは、大変なことです。
法人税の繰戻し還付制度が拡大された
こんなとき、急激に業績が悪化した時、過去に払った法人税や個人事業の所得税が戻って来れば話は違ってきます。
法人税の繰り戻し還付制度です。正確には、青色欠損金の繰り戻し還付制度といいます。
簡単に言うと、青色申告書を提出する法人が赤字を出した場合に、その法人がその前の事業年度に黒字で法人税を納税していたときは、赤字分の所得に対応する法人税を還付してくれる仕組みです。
この「欠損金の繰戻し還付制度」は、資本金1億円以下の中小法人が適用できますが、今回のコロナ対策として、資本金1億円超10億円以下の法人も青色欠損金の繰戻還付を受けることができます。
さらに、「新型コロナ税特法による繰戻しによる還付の特例」では、新型コロナウイルス感染症の影響により損失が発生した場合には、災害損失欠損金の繰戻による法人税額の還付を受けられることが可能となります。
この制度は、簡単に言うと、災害で赤字が出た場合で、前年は黒字で法人税を納税していたときは、災害損失による赤字分の所得に対応する法人税を還付してくれる仕組みです。
上記の普通の青色欠損金繰戻還付と何が違うか。まず、青色申告していない法人でも適用できます。つぎに、青色申告している法人の場合は、前年度だけでなく、前々年度の所得に対応する法人税からも還付を受けることができます。
「自分で自分を守る財務戦略」の必要性
法人税の繰戻還付制度、心強い制度です。
しかし、基本的に、還付を受けることができるのは、前事業年度の法人税として納税した部分のみです。いくら赤字が大きくても、それ以上遡って法人税を還付してくれることはありません。
本来、法人は、継続的に事業活動を行っているものです。利害関係者への報告や税金の計算上、どこかで区切ったほうが計算しやすいので会計事業年度が設けられているだけです。法人は継続していくという前提であれば、設立から解散までを通算してプラスが出れば課税するという考え方が成り立ちます。
しかし、そうしないのは、課税できるタイミングがなくなってしまうからです。
新型コロナショックのような誰も想像しなかったような事業環境の変化が起こった場合、大赤字に陥った場合、過去に納税した法人税の範囲であれば、赤字分の所得に対応する法人税を無制限に還付してくれるのであれば、新型コロナショックも生き延びることができる中小企業が増えるはずです。
しかし、上記の法人税の繰り戻し還付制度以外は、「既に払った税金を返してあげますよ」という話は一切出ません。出るのは、猶予か融資です。
だから、優遇税制を使って、できるだけ早めに税金を払わないようにするという財務戦略が中小企業には必要です。
だから、利益の一部を将来へ繰り延べて、課税前の資金を留保しておくという財務戦略が中小企業には必要です。 自分で自分を守る財務戦略が必要です。
川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長