ネット検索で上位表示されず患者激減、都落ちの危機
2010年代前半ごろ、都内オフィス街の雑居ビルで開業したクリニックのケースです。当時、iPhoneが発売されたことで、スマホでクリニックを探す患者さんが急増していました。その流れに乗ったクリニックは、1日100人以上も集患する盛況ぶりでした。そのうちクリニックが手狭になり、倍ほどの広さの場所へ移転しましたが、そこにも多くの患者さんが来院したことで、院長は一層自信を深めていきました。
ところが移転から半年で1軒、1年後にまた1軒、数年で5軒ほど、移転先のオフィス街には、標榜科目が被るクリニックが乱立しました。
クリニックが増えるにつれ、スマホで「地域名+科目名」で検索してもなかなか上位表示されなくなり、患者さんは徐々に減っていきました。その結果、移転前に逆戻りするどころか、移転前の7割ほどまでに減ってしまいました。
いま、そのクリニックの院長は競争の激しくない地方への移転も検討しているようです。
住環境もよく、開業志望の医師にとって人気の開業エリアだったため、特殊な事例かもしれませんが、開業には競合の出現という不確定要素はつきものなのです。
目的は?ゴールは?…長期的な視点に立って開業を
クリニックの開業における成功談・失敗談は、探せばたくさん出てきます。なかには、開業した時点で患者さんが多く盛業していれば「成功した」と判断されることも多いですが、筆者はその考えにはいささか疑問です。
開業というのは、常に同じ条件下にあるわけではなく、時間とともに外部環境が変化していきます。上述した例のように、最初はよくても徐々にライバルが増えるなどして、患者さんが減少するのはよくあることです。
実際、ベテラン開業医には「昔はよかったけれど、いまは患者さんが全然来ない」と嘆いている方も少なくありません。
また、必ずしも「大繁盛=大成功」とは限りません。開業の目的や目標はそれぞれ異なるわけで、成功の定義も医師によります。
つい目先の目標のみで開業を決めてしまいがちですが、長期的な視点で自分の開業の目的や目標と向き合っていくことも必要かもしれません。
蓮池 林太郎
新宿駅前クリニック 院長
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