(※画像はイメージです/PIXTA)

クリニック経営では「現在の収益・現在の患者数」を注視しがちです。しかし、周辺環境は常に変化しており、同じ状況で経営が続けられるわけではありません。一方、繁盛が絶対的な成功指標かといえばそうともいい切れず、「院長が目指すところ」も含め、長期的な視点で考えることが重要です。クリニックを経営する医師でありながら、経営戦略ビジネスも展開する蓮池林太郎氏が解説します。

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評価も収益も気にせずのんびり経営、すると競合が…!

昨今、クリニックの開業が増加しています。1980年頃クリニック(無床診療所)は5万軒だったのが、2000年頃には7万5000軒、2020年には10万軒を越えました。

 

2040年頃には12万5000軒、2060年頃には15万軒に達するとの予想もあり、クリニック間での競争は、ますます激しくなっていくことに間違いないでしょう。

 

そのような状況をふまえつつ、クリニック経営にあまり高いモチベーションを持たなかった院長の例を挙げてみたいと思います。

 

とある駅から8分ほどの場所に自宅兼クリニックを構えていました。マイナー科目であり、評判もそれほど高くありません。すると、そのクリニックから駅方向に徒歩1~2分ほどの場所に同じ科目の競合ができたことで、患者数が6割ほどに激減してしまいました。

 

予想以上に患者数が減って焦った院長は、駅近くへの移転を決意します。近隣の不動産会社だけでなく、知人を介して好立地のビルオーナーにも声をかけました。

 

すぐには探せなかったものの、半年ほどで駅前のビルの1階に空きが見つかり、そちらへ移転しました。

 

移転後、徐々に患者数は戻り、最終的に9割ほどに回復しました。

 

院長の決断によって患者数の激減をどうにか戻すことができたケースですが、実際に移転を決断できる院長は多くありません。

 

状況を俯瞰してみると、競合ができる前に好立地の場所に移転していれば、競合の新規開院自体を防げたかもしれませんし、少なくとも徒歩1~2分の場所にはできなかった可能性が高いといえます。仮に競合ができたとしても、駅の反対側やできるだけ距離の離れた場所であってほしいものです。

複数のライバル出現で経営悪化、院長の人品まで悪化…

ある医師は、新興住宅地で耳鼻科を開業しました。当初は耳鼻咽喉科の空白地だったことから、そのクリニックは大変盛業しました。

 

近くに同科目のライバルができ、挨拶に来たときも、「うちはパンクするくらい大変だけど、先生のところも忙しくなるよ」などと友好的な態度で、余裕の対応でした。

 

予想通り、ライバルのクリニックも患者数は増えて経営安定しましたが、新興住宅地ということもあり、次々とライバルの開院が続きます。当初1軒だけだったのが、5軒にまで増えたのです。

 

当然そのクリニックの患者数は激減し、ピークの3分の1ほどになってしまいました。

 

その院長は、ほかのクリニックに製薬会社の社員を介し「患者さんが少ないので分けてほしい」などと漏らすようになるばかりか、患者さんにライバルクリニックの悪口をいうまでになってしまいました。決して人格に問題がある人ではなかったのですが、苦しい状況が人格までも変えてしまったということでしょうか。

 

地域における医療の需要と供給のバランスは重要ですが、大規模な開発等により需要が増え、相対的に供給が不足した場合、一時的に多くの患者さんが来院することになります。

 

しかし、時間とともにライバルとなるクリニックの開院も増えていきます。どんなに名医であっても、ライバルが増えれば患者数は減ってしまうのです。

 

とくに、小児科・耳鼻咽喉科・産科など、子どもやその母親世代がかかりやすい病気の科目は、街の住民の高齢化に伴い需要が減っていきます。需要が減るとともにその科目のクリニックも減ってくれればいいのですが、都合よく閉院するわけではありません。そのため、地域のどのクリニックも盛業していないといったことも起こりえます。

 

開業してからの数年だけでなく、20年後、30年後の将来まで見据えたうえで開業場所を決めたいものです。40歳で開業したら、最低でも30年後の70歳までは開業し続けるでしょうし、もしかすると、40年後の80歳まで働き続けるかもしれません。

 

「2050年、2060年のことなんてわからない」という人もいるかもしれませんが、人口動態や大規模な再開発の有無については、調べればある程度はわかるものです。

 

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