●恒大集団の経営環境は不動産融資規制で急変、デフォルトや経営破綻の懸念が市場に広がる。
●銀行の総融資額のうち恒大向けは比較的小さくリーマン・ショックのような金融危機は避けられよう。
●信用リスクの広がりは要注意だが中国当局は間接的に債務再編を支援し恒大の清算は回避へ。
恒大集団の経営環境は不動産融資規制で急変、デフォルトや経営破綻の懸念が市場に広がる
先週は、中国恒大集団の債務問題に対する懸念が強まり、主要国の株価指数が大きく下落する場面がみられました。恒大は1996年に広東省広州市で創業、その後の不動産ブームに乗り、従業員10人弱の小さな会社から国内の不動産開発大手へ急成長を遂げました。しかしながら、中国当局が2020年夏に「三道紅線」(3つのレッドライン)と呼ばれる不動産融資規制を導入したことを機に、経営環境が大きく変化しました。
3つのレッドラインとは、①総資産に対する負債比率が70%以下、②自己資本に対する負債比率が100%以下、③短期負債を上回る現金の保有、という3つの財務指針です。これらを守れない不動産業者は、銀行融資の規模などが制限されることになります。恒大は複数の指針に抵触しているとされ、市場では融資規制による恒大の債務不履行(デフォルト)や経営破綻の警戒がくすぶっています。
銀行の総融資額のうち恒大向けは比較的小さくリーマン・ショックのような金融危機は避けられよう
恒大の負債総額は、取引先への未払い分などを含めると、1兆9,665億元(約33兆4,000億円)に達するとみられ、これは中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する金額です(図表1)。
今月下旬以降、社債の利払いが集中し、年内の利払い額は社債だけでかなりの金額にのぼる見通しです(図表2)。また、2022年からは利払いだけでなく満期償還を迎える予定です。
なお、恒大の債務問題が、リーマン・ショックのような金融危機に発展するのではないかとの声も一部に聞かれますが、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングスによると、中国の銀行総融資額のうち、恒大向けは0.3%強にとどまるとのことです。そのため、仮に恒大がデフォルトに陥っても、中国の金融システム全体が動揺する恐れは小さいと思われます。
信用リスクの広がりは要注意だが中国当局は間接的に債務再編を支援し恒大の清算は回避へ
ただ、海外の投資家は、恒大の米ドル債を約195億ドル保有している模様で、特定の社債がデフォルトとなった場合への影響が懸念されます。また、中国国内では、恒大の「理財商品」を保有する個人投資家が、償還を求めて抗議する動きもみられます。このほか、同業の不動産会社に債務問題が連鎖することも想定されるため、この先、信用リスクの広がりには注意が必要です。
なお、直近では、香港と米国の金融当局が、域内の金融機関に恒大向けの債権額を報告するよう求めたと報じられていますが、これは信用リスクの顕在化に備えた動きと思われます。当面、恒大の債務返済状況や中国政府の対応が、市場の焦点になるとみていますが、弊社は恒大について、債務再編は避けられないものの企業清算は回避され、中国当局は直接支援ではなく銀行を通じた間接支援で債務再編を支えると考えています。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国恒大集団問題について』を参照)。
(2021年9月29日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト