※画像はイメージです/PIXTA

在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき院長の宮本謙一氏は「どんなに重い症状の方でも人生を楽しむことは可能であり、在宅療養生活では、入院生活とはまた違った笑いあふれる日々を過ごすことができる」と語ります。ここでは同氏が実際に診た、2人の男性患者の事例について解説していきます。

50代・末期がん男性と「出て行った元妻」見舞いの末…

Gさんは50代の男性、食道がんでした。

 

とても優しく人当たりの良い方で、別の見方をすると、とても気が弱くてストレスを抱え込むようなタイプでした。そのためか、お酒とタバコをやめられず、特にお酒を浴びるように飲んでしまい、奥さまが息子さんを連れて家を出ていき、離婚して、一人寂しく闘病生活を送っていました。

 

放射線治療と抗がん剤治療を継続してきましたが、次第に抗がん剤の効果がなくなり、がんが全身に拡がり、いわゆる末期の状態となってしまいました。体力が低下し通院も困難となったため私たちに依頼があり、訪問診療を開始しました。

 

Gさんは病状の悪化のため事務的な手続きを自力で行うことも難しくなっており、元奥さまに連絡を取りましたが、当初は「難しい手続きなどは手伝うが、それ以上のことはできない」と言っていました。

 

そのため、忙しい息子さんが仕事の合間に介護のお手伝いに来られるとき以外は、私たち在宅療養支援チームが何とかGさんの独居生活を支えながら、痛みなどの症状に対する緩和ケアを継続していました。

 

ところが、元奥さまが時々Gさんのお見舞いに来られるようになり、徐々に二人の関係性が変わっていきました。もともとは深い愛情で結ばれ、長年連れ添ってきたご夫婦です。闘病生活でどんどん弱っていく一方で、家族に対しては常に温かい感謝の言葉を伝える優しい患者さんの姿を見ながら、元奥さまの気持ちは大きく揺れ動き、最終的にはご自身の仕事を休職し、最期まで献身的に介護に専念することを決断しました。

 

亡くなったあとで、元奥さまにあらためてGさんへの想いを聞きましたが、「とても優しい人で、常に家族のことを第一に考えて、一生懸命働いて家族を支えてくれた。お酒のことがなければ、ずっと一緒にいたかった」と言っていました。

 

Gさんは、すごくお金のことを気にして、常々訪問診療や訪問看護の回数を最小限にしたいと言っていました。決して金銭的に余裕がないわけではなく、私たちは少し不思議に思っていました。

 

これも亡くなったあとで聞いた話ですが、Gさんは息子さんに1円でも多く財産を残したいと思い、つらいときにもできるだけ私たちに連絡せず、少しでも医療費がかからないようにと考えていたそうです。

 

そんな優しさもあり、完全に家族の絆を取り戻し、元奥さまだけではなく息子さんも仕事をセーブして精力的に介護に加わるようになり、最期は元奥さまと息子さんに笑顔で見守られながら、自宅で穏やかに息を引き取りました。

 

 

宮本 謙一 

在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき 院長

 

 

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※本連載は、宮本謙一氏の著書『在宅医療と「笑い」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

在宅医療と「笑い」

在宅医療と「笑い」

宮本 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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