(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年8月5日に公開したレポートを転載したものです。

3. 年金制度に関する今後5年間の整備目標

人力資源社会保障部は、6月29日、「人力資源・社会保障事業の発展に関する第14次5ヵ年計画」(以降、「計画」)を発表した。これは国の第14次5ヵ年計画(2021-2025年)に基づいて、今後5年間で取り組むべき年金、失業、労災、就労などに関する課題や目標について定めたものである。

 

計画によると、年金に関しては、全体目標として、都市の会社員を対象とした都市職工年金の全国統合、また、民間の個人年金などを含む多層的な年金体系の構築を目指すとしている。一方、年金制度の持続可能性を維持するためにも、制度そのものの見直しにも着手するとしている。

 

制度の見直しについては、まず、これまで長年検討が重ねられつつも実現していない年金の受給開始年齢(=法定退職年齢)の引き上げが挙げられる。しかし、1960年代生まれのベビーブーム世代の退職が目前の状況にあるが、計画においては具体的な引き上げ方法やその導入時期については明示されていない。どのようなルールに基づいて実施されるか、その原則を記載しているのにとどまっている。

 

それは、

(1)受給開始年齢(法定退職年齢)は一気に引き上げず、数ヶ月単位など小刻みに行うこと
(2)受給開始年齢の引き上げは強制ではなく、受給権者に選択肢を与えること
(3)法定退職年齢の区分(男性60歳、女性は一般職が50歳、専門職は55歳)によって、それぞれ対応が異なること
(4)受給開始年齢の引き上げは単独で行うのではなく、関連する政策や保障措置の改正も行った上で実施すること

の4項目となっている。

 

現時点で原則しか提示できていないことや決定権の多くが受給権者に委ねられている点からも、この問題は社会の反響が大きく、実施がいかに難しいかが伝わってくる。また、それと同時に、受給資格期間の延長(現行は15年間)も検討するとしている。

 

更に、計画では年金現価率の改定も盛り込まれている。都市職工年金は、「基本年金」(企業拠出分・賦課方式)と「個人勘定」(個人拠出分・積立方式)の2つで構成されている。個人勘定については、残高を定年退職年齢に基づいて定められた年金現価率によって分割して支給される[図表3]。

 

[図表3]現行の年金現価率
[図表3]現行の年金現価率

 

年金現価率の改定は、長寿化に伴う年金支給期間の長期化に対応するためであろう。全国の平均寿命(2019年)は77.3歳であるが、特に北京市(82.3歳)、上海市(83.7歳)といった大都市となると、日本とそれほど変わらない状況にある。

 

例えば、現行であれば、60歳に定年退職した場合の年金現価率(月数)は139となる。しかし、定年退職以降の平均余命を考慮すると、現行の基準では、最後の数年間は年金受給額がかなり少なくなってしまう(基本年金のみ)可能性が高い。平均寿命が男性よりも長い女性についてはより問題が大きいであろう。

 

更に、都市職工年金への加入要件の緩和が検討されている。特に新型コロナ以降増加しているデリバリー配達員など短期契約の臨時工、非正規労働者の年金加入についても規制が緩和される方向にある。社会のデジタル化、若年層の働き方が多様化する中で、これら臨時工については、どこで就労しているか、就労地による加入を可能にするとしている。

 

これまで都市職工年金への加入は都市戸籍であることや、労働契約を結んでいる正規労働者を主な対象としてきた。しかし、新型コロナウイルス以降、社会における非接触のオンライン消費は更に拡大している。

 

加えて、それを支える流通・輸送の産業は、まさに新型コロナウイルスによる失業の受け皿であり、社会や生活を支える上でも重要な産業分野でもある。しかし、多くの就労者は臨時の雇用契約であったり、もしくは雇用契約そのものがなく、社会保険に加入できていないケースも多い。政府はこのような臨時工を2億人と見込んでおり、彼ら自身の老後の生活を支え、更には年金制度全体を支える被保険者とすべく、加入を促進する予定だ。

 

いずれにしてもベビーブーム世代の大量退職まで残された時間は短く、制度の見直しや改定のタイミングを見誤ると社会の不公平感を生みかねない。少子高齢化をどう食い止めるかという人口問題、老後の生活をどう支えるのかといった年金問題はまさに歴史的な転換点にある上、解決すべき課題はあまりにも重い。

 

 

片山 ゆき

ニッセイ基礎研究所

 

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