福岡ソフトバンクホークスは2020年7月、本拠地・PayPayドームのすぐ横に、エンターテインメントビル「BOSS E・ZO FUKUOKA」を開業しました。なぜ野球以外のことに巨額の投資をするのか? そう疑問に思ったファンも少なくないでしょう。狙いを理解するには球団=野球という図式を離れて、野球を「スタジアム・ビジネス」の一分野として捉えることが重要です。チームの強さとビジネスの強さは両輪。実はソフトバンクが行おうとしているのは、野球という「すごい『コンテンツ』に見合うビジネス」なのです。ソフトバンク代表取締役専務COO兼事業統括本部長の太田宏昭氏に取材してわかった「新しい経営戦略」の一部を、本稿で見ていきましょう。

E・ZOは「世界一」を展開していくための拠点

吉本の舞台にしても、もちろん、吉本新喜劇や漫才、コントで楽しませるという狙いもあるが、太田が惹かれたのは「お笑いもあるし、彼らがやろうとしている総合的なエンターテインメントのすごさ、素晴らしさを理解していること」だという。

 

吉本が、新たに取り組んでいるという「ノンバーバル」の演劇がある。

 

つまり非言語。パントマイム、ブレイクダンス、マジックショー、ジャグリング、レーザー光線などの光学的な演出がそうだ。演劇も、言語に頼らない。表情、視線、ジェスチャーで、思いや物語を表現していく。

 

大阪コテコテの笑いだけではない。日本語が通じない外国人でも、その劇場にやって来て楽しむことができる。そうしたコンテンツを用意しているのだ。

 

例えば、これを夜9時にスタートさせる。観光から帰って来た外国人が、野球を見終えたファンが、ちょっと足を運んでみる。そのナイトショーが終わったら、ホテルのバーでゆっくりとお酒を飲む。

 

「海外へ行ったら、普通、こういうのがあるじゃないですか」

 

ただ単に、外国の真似をしているのではない。外国人の視点に立てば、日本に来て、その世界水準のアミューズメントを体験できる場所で、ゆっくりと過ごしたい。

 

言葉や国籍、人種の壁を超えた”世界一のおもてなし”を提供する。

 

野球、演劇、ショー、ゲーム、グルメ、ミュージアム。そのホスピタリティに立ち、これらの「アミューズメント」を掛け合わせていけば、その組み合わせはまさしく、幾通りも出てくるのだ。

 

その「世界一」という”くくり”の中に「王貞治ベースボールミュージアム」もある。

 

「コンセプトとして、全くずれていないんです。世界一のコンテンツといったら、怒られちゃいますね。でも、別に何もコンセプトもなく持って行ったわけじゃなく、そういうものをしっかり集める。当然、世界一に近づくようになるということなんです」

 

もちろん、経営的な面でもメリットはあった。

 

「王貞治ベースボールミュージアム」が福岡PayPayドーム内にあったときには、そこからも試合を見られるような造りになっていた。

 

このスペースを空けて、さらに観客を入れれば、それだけ収益は増える。

 

太田は、その「収益」と「歴史」とのバランスを取ることに苦心したという。「そこだけ切り取ればその通りなんです。経済合理性があるわけじゃないですか。だからやれるんです。空けたかったし、満席にしたかったんです。

 

じゃあ、どうしたらいい? なくすわけにはいかない。ビルができて入れば、いい形で収まるわけです。大きい柱は、僕らが持っている『目指せ世界一』のスローガン。それが理念、ビジョンみたいなものですからね。そのコンセプトとしてもずれていない。そういうことで造っているんです」

 

ラスベガスのように、朝から夜まで、一日中楽しめるエリアを創る。そのための”橋頭堡(きょうとうほ)“として「BOSS E・ZO FUKUOKA」があるのだ。

 

 

喜瀬 雅則

スポーツライター

 

 

稼ぐ! プロ野球 新時代のファンビジネス

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喜瀬 雅則

PHP研究所

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