医師と看護師の間に存在する「わだかまり」
どの職場でもそうですが、部署ごとに競う合った結果、その関係性が悪くなっている光景を見かけます。同じ会社の社員同士なのに、仲が悪かったら非効率そのものと思ってしまうのは誰もが共通する意見ではないでしょうか。こうした状況というのは、病院でも頻発しているようです。
医師とは、朝から晩まで多忙な職業のひとつです。寝不足が原因でイライラしたり、疲れが溜まってしまい、八つ当たりをしてしまったり。そういうときに、自分の描いていた方針とずれた行動をされてしまえば、普段は怒らないようなことでも、叱っていたなんていうこともあるのかもしれません。ただ、こうしたことが積もっていくと、看護師にしても聖人ではありません。わだかまりができたり、あるいはその個人への不信感がたまったりするものです。お互い人間ですから、自分を抑えて相手のことを考慮する、というのは簡単なようで難しいものです。
とある地方の総合病院で実際にあったお話です。その女性の看護師さんは、これまで特に目立ったこともなく、毎日の業務に携わっていました。あるとき、整形外科の手術に立ち会うこととなったそうですが、その執刀医は院内でも怖くて有名な医師でした。患者さんは膝の靭帯が断裂していたそうで、これを縫合したのですが、手術自体は滞りなく進んだそうです。最後に傷口を縫合するときのこと。その看護師さんは、何度かその医師といっしょに手術に参加したことがあり、針と糸はきっと何を使うだろうと予測をしていたそうです。いざ、縫合しようとしたときに、医師の希望とその予測がぴったり合ったそうです。手術の現場で、こういうことが珍しいのかは定かではありませんが、その怖い医師はとても上機嫌となり、無事に終えることができたそうです。
患者さんに向かって、看護師を褒めた医師
その日の夕方、看護師さんは師長さんに呼び出されました。なにか失敗をしたかドキドキしていたそうですが、医師からの言付けで、そのときの手術のことを褒められたそうです。そしてその翌日、医師の回診に同行したときのことです。普段は強面で決して笑顔を見せないその医師が、患者さんに「実は今回の手術で、彼女のサポートが素晴らしかった。傷跡もきれいに処置できたのは、彼女のおかげなんですよ」と褒めてくれたそうです。
まさかその医師が、師長だけでなく患者さんにまで自分のことを褒めてくれるとは思ってもみなかった彼女は、照れくささと恥ずかしさでどうしていいかわからなくなってしまったそうです。ただ、その日から彼女のモチベーションは周囲から見ても、はっきりと変化したそうです。
これまでは言われたことだけをこなしていただけだったのが、自分からこうしたほうがいいと思うことには積極的に。それが間違っていればすぐに対応を変化させ、手術室でも医師からの評判はうなぎ上りだったそうです。そしていつしか、医師の間では冗談半分ではありますが、彼女のことをスーパーナースと呼ぶようになったとか。
人材育成のときに、褒めて育てろという言葉はよく耳にしますが、厳しく接しなければいけないときも多々あることは事実です。この匙加減が難しいところではあると思いますが、このエピソードで医師の素晴らしかったところは、褒めるべきところはしっかりと褒めてあげ、それを感謝の意として伝えたことではないでしょうか。
もしかするとエピソード自体は、医師の世界ではそんなに際立ったことではないのかもしれません。ただ、看護師さん個人のモチベーションに変化を持たせたという医師の行動は、日ごろ看護師たちには厳しく映っている姿のなかに垣間見えた、育成に対する愛情と感じられたのかもしれません。
対人関係というのは、どの職場においても難しいもの。人によって受け取り方が違う以上、こうすることが正解という答えのない問答のようなものではありますが、ひとつの成功例として参考にされてみるのもいいかもしれませんね。