オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決める自主学習を行います。ある日、勉強以外のことに才能を見つけた平平(ピンピン)の母と李氏は、「学歴」について話し合いました。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。種子学苑に集う子どもや親、先生から寄せられた質問に、同氏が一つ一つ答えていきます。
オードリー・タンの母が「目標を見つけられない子ども」にかけた言葉 ※画像はイメージです/PIXTA

「スポーツと漫画以外には興味を持たない子ども」が心配な母

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「努力が必要なのは分かるけど、どうしてもできないんだ」と息子に言われ、困っています。

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一昨日、私たちは電話で平平(ピンピン)についてお話ししました。その結果、学業面での問題を考えると、平平は学歴にとらわれず、自分の道を進む方がいいという意見で一致しました。

 

この数日間、平平のことを考えていたら、かつて受験競争に敗れた生徒の顔が次々と頭に浮かびました。こういう子を持つ親が、学歴に対するこだわりを捨て、子どもに自分の道を進ませてあげていたら、社会にはもっと幸せと自信に満ちた人が増えるはずです。

 

でも、どうやって実現すればいいでしょう?

 

そもそも平平はとても恵まれた子どもです。早くから自分の素質を理解し、スポーツ万能で、漫画や絵を描くという特技も見つけました。でも平平は、皆と同じように語文や算数のテストでもいい点を取りたいと言います。芸術大学に進学できなかったら将来お金を稼げないと思っているのかもしれません。あるいは、周りの生徒をライバル視して、負けたくない一心なのかもしれません。

 

教室でみんなと一緒に授業を受けるのは大変そうだったので、学苑は平平が自分の方法で学ぶことに賛成しました。しかし、勉強すること自体が目的になると、限界や失敗、苦しみが伴うのは当然です。平平は感情の起伏が激しくなり、自分を卑下し、人間関係にも苦労するようになりました。感情を抑えられない平平を見て、大人たちも心配し始めました。

 

また、平平はいつも漫画を読んでばかりで、スポーツと漫画以外には興味を持ちません。以前は画力を上げようと頑張っていたのに、最近はその努力も止まっているようです。お母さんがその話をしたら、平平は「自分でも良くないと思ってる。努力が必要なのは分かるけど、どうしてもできないんだ」と答えたそうですね。子どもが自分を責める姿を見て、あなたはショックを受けたことでしょう。この話を聞いた時、私も返す言葉に詰まりました。

 

語文や算数は、そんなに重要でしょうか? 平平は普通に生活するのに充分な読み書きと計算能力を持っています。大人だってよく漢字を間違えるじゃないですか。数学や言語を使った仕事で生きていこうと思わない限り、日常生活に困ることはまずありません。

 

芸術大学に行くことは、そんなに重要でしょうか? 芸大を出ていない芸術家は、世界中に数えきれないほどたくさんいます。一般人が皆と同じ道を歩きたがるのは、一人が怖いか、一人で進む方法が分からないからです。