うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

●優等生ではない自分を受け入れる

 

和葉さんの顔に明るさが戻り始めたのは、それからだった。希死念慮を口にすることがなくなり、何か自分にできることを始めたいと、就労移行支援事業所を探してきて、通い始めたのだ。

 

学業でも仕事でもうまくいかないことが続いて、「自分には何もうまくできることはない」と思い始めていた彼女にとって、就労移行支援事業所での体験は、自信を取り戻すきっかけになった。いきなり就労にチャレンジするのではなく、訓練的な取り組みにハードルを下げて始めたことが、良かったのである。

 

それまでの和葉さんは、何事も優等生の自分しか認められなかった。それゆえ頑張りすぎて、無理が限界を超えてしまうことをくり返していた。誰だって、そんなに頑張れば疲れ切ってしまうのだが、もう頑張れない自分をダメだと全否定し、自殺企図に走ってしまっていた。

 

その意味で、背伸びをやめ、小さな目標でも価値があると思えるようになったことは、大きな進歩だったのだ。

 

その後、仕事に就いたが、仕事の関係で知り合った彼氏と結婚。今は、専業主婦となって子育てに励んでいる。激動の時代がウソのように、平穏な暮らしを手に入れている。和葉さんにとって何よりうれしかったのは、両親もとても和葉さんの子どもを可愛がってくれることである。

 

*   *   *   *   *

 

どん底にまで落ち、絶望の淵に沈んだ和葉さんだったが、そこから再生のプロセスが始まったといえる。半ば彼女のことをあきらめ、手を引いてしまっていた親も、危機感を新たにし、本気でもう一度かかわってくれたことも大きかった。

 

それまでは、両親に認めてほしいと、無理な目標を自分に強いていたが、親も「無理しなくていい、生きていてくれるだけでありがたい」と、接し方を変えたことで、ゆったりとしたペースで回復することができた。

 

そして、親から彼氏へと、支え手のバトンパスもうまくいったようだ。

 

※なお、本文に登場するケースは、実際のケースをヒントに再構成したもので、特定のケースとは無関係であることをお断りしておく。 

 

 

岡田 尊司

精神科医、作家

 

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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