(※写真はイメージです/PIXTA)

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

「信頼できる専門家」の見分け方は?

課題を抱えている人が真剣に向き合おうと思ったときには、せっかくのチャンスを無駄にしないためにも、信頼できる専門家に助力を求めることをお勧めする。費用がかかったとしても、長い目で見ると、もっと大きな損失や危険を避けることにつながる。専門家を選ぶ場合も、変にカリスマ性の高い人や、安請け合いをする人は、用心した方がいい。

 

まず大事なことは、その人自身が安定型の人であるということだ。かつて不安定な愛着を抱えていたとしても、その部分を克服していることが必要である。愛着が安定した人を見分けるための特徴をいくつか記しておこう。

 

(1)接していて、怖さや危険な感じがなく、安心できる。

(2)穏やかで、気分や態度がいつも一定している。

(3)目線が対等で、見下したような態度やおもねりすぎる態度をとらない。

(4)優しく親切だが、必要なときには、言いづらいことも言う。

(5)相手の意思や気持ちを尊重し、決めつけや押し付けがない。

 

これらは、言うまでもなく、安全基地になるための条件でもある。魅力的で、惹きつけられる人ではあるものの、こうした条件から外れる場合には、その人自身が不安定な愛着を抱えた、演技性や自己愛性といったパーソナリティの持ち主かもしれない。安定した安全基地となってもらうには、あまり適さない。

 

もちろん、心理カウンセリングに熟練していて、愛着に課題を抱えたケースの回復を実際にサポートした経験をもっていることが望ましい。

「認知」が変化すれば、物事の受け止め方も肯定的に

愛着が安定しているときの認知(物事の受け止め方)と、愛着が不安定になったときの認知は、同じ人であっても大きな違いを見せる。愛着が安定している人の認知の特徴は、不快なことがあっても、それを過大視せず、むしろ、いい面や背景に思いを巡らせ、嘆いたり攻撃したりするのではなく、理解し受容しようとする。

 

不安定型の愛着に苦しんでいた人が、安定型に変わったときも、物事の悪い部分にとらわれすぎず、「そういうことがあったにしろ、良いところもあるのだし、また悪い点さえも、何かプラスになる面ももつ」と、肯定的に考えるようになる。そして、自分がされた不快なことは許し、自分がしてもらった良かったことに、感謝の気持ちを抱くようになる。

 

体験した事実が同じであっても、その人の認知が変わることによって、事実を肯定的に考えられるようになる。愛着の安定性は、体験した事実そのものよりも、それをどう受け止めるかという姿勢に左右されるのである。

 

同じような悲惨な体験をしても、その傷から人間不信に陥り、悲観的な考えから抜け出せない人もいるが、一方で、そうした悲観的な考えにとらわれることを免れたり、一時的にそうなっても、再び見方を変え、希望と信頼を取り戻す人もいる。

 

そこから、次のような希望的観測が生まれる。身に受けた事実が同じであっても、受け止め方を変えることによって、愛着が安定したものに変わるのではないのか。一言でいえば、「認知が変わることで、愛着を安定したものに変えることができる」のではないのか。その可能性を否定するつもりはない。しかし、そうしたことが起きたと断言できるケースは、実際には稀である。まず愛着の安定化が起き、そこから認知が変わったというケースの方が圧倒的に多い。

 

支援者が熱心にかかわることで、愛着が安定し、絶対許せないと思っていた気持ちが次第に薄らいでいき、物事の受け止め方が変わり、ぎくしゃくしていた家族との関係も改善していく──というのが、最も自然な流れである。

極限的な体で「認知」が変化・改善することもある

つまり、最初の変化は、いきなり認知の変化から起きているというよりも、何らかの体験、多くは支え手との出会いによって、愛着の安定化が先に起きていることが多いのである。例外的に、認知の変化の方が先行して起きるケースとしては、自分が死にそうな目にあったことがきっかけとか、愛する存在の死や命にかかわる事態に直面して、という場合が多い。つまり、何らかの極限的体験が引き金となっている。

 

ただ、これらは運命の偶然によって引き起こされる事態であり、克服法として実践できるものではない。もちろん、そうしたことがきっかけになり、ピンチがチャンスを生むということは、知っておいて損はない。

 

話を戻すと、愛着の安定化が十分でない段階で、認知を修正しようとすると、逆効果になることが多いということだ。よくあることだが、「その受け止め方はダメだ」と言われたことで、自分を否定されたと思い、落ち込んでしまったり、「自分の受け止め方はダメなんだ」と思うことで、人に対してかかわる自信が余計なくなり、改善しようという取り組み自体が行き詰まってしまう。

 

むしろ、そうした修正を施さず、愛着の安定化だけにエネルギーを傾注した方が、認知もバランスの良いものに変化するということを、しばしば経験する。通常の認知療法なども、それがうまくいくのは、愛着が比較的安定した人である。

 

※なお、本文に登場するケースは、実際のケースをヒントに再構成したもので、特定のケースとは無関係であることをお断りしておく。

 

 

岡田 尊司

精神科医、作家

 

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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