「信頼できる専門家」の見分け方は?
課題を抱えている人が真剣に向き合おうと思ったときには、せっかくのチャンスを無駄にしないためにも、信頼できる専門家に助力を求めることをお勧めする。費用がかかったとしても、長い目で見ると、もっと大きな損失や危険を避けることにつながる。専門家を選ぶ場合も、変にカリスマ性の高い人や、安請け合いをする人は、用心した方がいい。
まず大事なことは、その人自身が安定型の人であるということだ。かつて不安定な愛着を抱えていたとしても、その部分を克服していることが必要である。愛着が安定した人を見分けるための特徴をいくつか記しておこう。
(1)接していて、怖さや危険な感じがなく、安心できる。
(2)穏やかで、気分や態度がいつも一定している。
(3)目線が対等で、見下したような態度やおもねりすぎる態度をとらない。
(4)優しく親切だが、必要なときには、言いづらいことも言う。
(5)相手の意思や気持ちを尊重し、決めつけや押し付けがない。
これらは、言うまでもなく、安全基地になるための条件でもある。魅力的で、惹きつけられる人ではあるものの、こうした条件から外れる場合には、その人自身が不安定な愛着を抱えた、演技性や自己愛性といったパーソナリティの持ち主かもしれない。安定した安全基地となってもらうには、あまり適さない。
もちろん、心理カウンセリングに熟練していて、愛着に課題を抱えたケースの回復を実際にサポートした経験をもっていることが望ましい。
「認知」が変化すれば、物事の受け止め方も肯定的に
愛着が安定しているときの認知(物事の受け止め方)と、愛着が不安定になったときの認知は、同じ人であっても大きな違いを見せる。愛着が安定している人の認知の特徴は、不快なことがあっても、それを過大視せず、むしろ、いい面や背景に思いを巡らせ、嘆いたり攻撃したりするのではなく、理解し受容しようとする。
不安定型の愛着に苦しんでいた人が、安定型に変わったときも、物事の悪い部分にとらわれすぎず、「そういうことがあったにしろ、良いところもあるのだし、また悪い点さえも、何かプラスになる面ももつ」と、肯定的に考えるようになる。そして、自分がされた不快なことは許し、自分がしてもらった良かったことに、感謝の気持ちを抱くようになる。
体験した事実が同じであっても、その人の認知が変わることによって、事実を肯定的に考えられるようになる。愛着の安定性は、体験した事実そのものよりも、それをどう受け止めるかという姿勢に左右されるのである。
同じような悲惨な体験をしても、その傷から人間不信に陥り、悲観的な考えから抜け出せない人もいるが、一方で、そうした悲観的な考えにとらわれることを免れたり、一時的にそうなっても、再び見方を変え、希望と信頼を取り戻す人もいる。
そこから、次のような希望的観測が生まれる。身に受けた事実が同じであっても、受け止め方を変えることによって、愛着が安定したものに変わるのではないのか。一言でいえば、「認知が変わることで、愛着を安定したものに変えることができる」のではないのか。その可能性を否定するつもりはない。しかし、そうしたことが起きたと断言できるケースは、実際には稀である。まず愛着の安定化が起き、そこから認知が変わったというケースの方が圧倒的に多い。
支援者が熱心にかかわることで、愛着が安定し、絶対許せないと思っていた気持ちが次第に薄らいでいき、物事の受け止め方が変わり、ぎくしゃくしていた家族との関係も改善していく──というのが、最も自然な流れである。
極限的な体 験で「認知」が変化・改善することもある
つまり、最初の変化は、いきなり認知の変化から起きているというよりも、何らかの体験、多くは支え手との出会いによって、愛着の安定化が先に起きていることが多いのである。例外的に、認知の変化の方が先行して起きるケースとしては、自分が死にそうな目にあったことがきっかけとか、愛する存在の死や命にかかわる事態に直面して、という場合が多い。つまり、何らかの極限的体験が引き金となっている。
ただ、これらは運命の偶然によって引き起こされる事態であり、克服法として実践できるものではない。もちろん、そうしたことがきっかけになり、ピンチがチャンスを生むということは、知っておいて損はない。
話を戻すと、愛着の安定化が十分でない段階で、認知を修正しようとすると、逆効果になることが多いということだ。よくあることだが、「その受け止め方はダメだ」と言われたことで、自分を否定されたと思い、落ち込んでしまったり、「自分の受け止め方はダメなんだ」と思うことで、人に対してかかわる自信が余計なくなり、改善しようという取り組み自体が行き詰まってしまう。
むしろ、そうした修正を施さず、愛着の安定化だけにエネルギーを傾注した方が、認知もバランスの良いものに変化するということを、しばしば経験する。通常の認知療法なども、それがうまくいくのは、愛着が比較的安定した人である。
※なお、本文に登場するケースは、実際のケースをヒントに再構成したもので、特定のケースとは無関係であることをお断りしておく。
岡田 尊司
精神科医、作家