いつも「上から目線」で接する困った利用者
では、「少し上から目線」の位置から「同じ目線」まで、ケアマネはどのように下げていくのでしょうか。
「じっさいに目の位置を下げることもします。利用者さんが椅子に座られたり、ベッドにおられるときは、ヒザを床につけて目の位置を同じにして語りかけるようにしますしね。命令するような話し方も避けるようにしています。そしてつねに笑顔を心がけます。また、会話では介護とは関係ない世間話も織り交ぜて、心を開いてもらうようにします」
そのようなコミュニケーションをくり返すことで、目線が下がっていくといいます。なかにはケアマネへの気づかいから「少し下から目線」をキープしようとする利用者もいるそうですが、それでもフラットな状態に近づける。良いケアマネはこんな努力をしているのです。
■プロ意識が足りない〝御用聞き〟ケアマネ
目線の上下関係では、少数ですが特異なケースもあるといいます。介護のスタート時は心理的背景もあって、大方は利用者・介護者が「少し下から目線」、ケアマネが「少し上から目線」ですが、利用者・介護者のなかには「上から目線」を押しとおす人がいるのです。
会社の社長だったり、大学の教授だったり、つねに相手に上からものをいっていた人にはその傾向があるそうです。ケアマネをはじめ、介護サービスで来る人たちを下に見て、パワハラ的言動を連発。ケアプランにも口を出し、サービスを自分の意向で変えてしまう人もいるそうです。
社長なら会社にいるときは、そんな上から目線も受け入れられたでしょう。しかし、一般社会では、その人の肩書や残した業績など誰も知らず、通用するわけがありません。そんな冷静な判断ができない困った人もいるわけです。このような利用者に当たったケアマネはストレスをため、それが限界にくると担当を替えてもらうことになります。
「このタイプの利用者さんを女性ケアマネが担当するのは難しい。で、辞めたあと、私のような男性ケアマネが担当を引き継ぐことが多いですね」
こうした難しい利用者でも、上から目線を反省してもらい、同じ目線にすることが可能だといいます。
「パワハラ気質に恐れをなして、いわれたことをすべて聞いちゃうからダメなんです。私の場合はケアプランに口出しされても、受け入れられないことだったら『要望にはお応えできません』ときっぱり告げます。しかも、感情的にならず冷静に。ケアプランのプロとして、その理由を筋すじ道みち立てて説明するのです。
前任のケアマネがいうことを聞いてくれたのに、聞かないわけですから当然、相手は反発します。でも、それなりの地位に就いていた方は理解力がありますから、そうした対応をつづけていれば目線もだんだん下がっていって、最終的にはフラットな関係になるんです」
良いケアマネは数多くの利用者・介護者と接する経験を重ねる過程で、フラットな人間関係を築く方法論を学び、実践するのです。見方を変えれば、そうした努力をしないプロ意識に欠けたケアマネがかなりの割合でいるともいえるでしょう。