「抗うつ薬」「臨床心理士から生活指導」の効果は…
しかし、その後も抗うつ薬の効果はあまり見られません。両親から心理カウンセリングを受けるよう促されたAさんは、医師に相談をしました。その相談を受けて、医師は、次回以降の診察前に院内の臨床心理士による50分間の心理カウンセリングの手配をしました。
担当になった臨床心理士は、Aさんの生活状況を改めてヒアリングしました。仕事が増えているなかで、うつ病のような病気で仕事を休んでいることへの負い目から「会社に申し訳ない、職場の人はどう思っているだろうか」などと考えだすと罪悪感から目が冴えてしまい眠れないことなど、多くのことを打ち明けてくれました。寝つきが良くなるような気がして、寝る前にアルコールを飲んでいることも分かりました。
臨床心理士は患者の話にじっくりと耳を傾け、その気持ちや苦しさに共感したうえで、「今は無理しなくていいんですよ」と優しくねぎらいました。仕事に行けない自分自身や、職場の人たちの反応に対するマイナス思考が強いことを心理的な課題と見立てた臨床心理士は、マイナス思考を改善するための認知行動療法とマインドフルネス瞑想を指導するなどの策を講じました。
しかし、依然として症状は改善する気配がありません……。
このように当院では、病状が一向に改善しないためセカンドオピニオンを求めて受診する患者が多く、その方たちの治療経過をつぶさに聞くと、このような典型的な状況が浮き彫りになってくるわけです。
精神医療の領域で、対人援助職である精神科医や臨床心理士などに求められているのは、患者の心身を蝕む”ボトルネック”を発見し、適切に介入することでその解消や軽減を図ることです。
ボトルネックとはその名のとおり「瓶の首」という意味ですが、そこから転じて、「その不具合を解消することが最も効果的に状況全体の打開につながる、優先度の高い介入ポイント」を意味する用語として、主に工場の生産ラインや、ビジネスのプロジェクトマネジメントなどの成果向上を求める場面で用いられています。
先ほどのAさんの例では、薬の処方と生活指導で効果が見られなかったため、カウンセリングを行い、さまざまな心理療法を試みたにもかかわらず、症状は軽減しませんでした。この治療の流れにおける問題点は何か、言い換えるなら、見つけ出せないでいるボトルネックは何か、それを探るために、まずは医師の診療について検証する必要があります。