節税対策として養子縁組を選択
大谷さんは、横浜市在住の開業医。8年ほど前から、診察のないときは、オンラインで相続セミナーばかり受講していました。それは、70代後半になった母親に万が一のことがあった場合に、自分にたくさんの相続税が課されるのではないか、という懸念があったからです。
大谷さんは2人兄弟です。兄がいますが、子どもはいません。そのために、母に万が一のことがあった場合の法定相続人は、大谷さん1人になってしまい、相続が発生した際の基礎控除額は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円。
セミナーを受講して、養子縁組により、相続税対策ができることを知り、漠然と基礎控除額が少ないと感じていた大谷さん。ある日、自分の病院をかかりつけにしている患者さんが、相続のときに、自分の妹が兄の養子になっていたことを話し出し、養子にしたことで、自分たちがどれだけ、良い思いをしたかを大谷さんに語りました。
そのエピソードが自分の気持ちを後押しし、自分の長女を母親の養子にすることを、母親に発案しました。親、兄弟、子、孫の関係が大変良好だったため、母親も長女も快諾。養子縁組は無事に成立し、結果として、基礎控除は4,800万円となりました。
母親の財産は思いのほか多かった
母親が80代半ばに差し掛かったとき、相続に関して、別の問題が浮上してきました。大谷さんの母親に認知症の兆候が出てきたのです。自分以外の専門家にも相談してみたところ。現在は意思判断能力があるが、認知症になるのは時間の問題だという見解でした。
遺言を作成することになり、コンサルタントに相談した際に、母の財産が思いのほか多かったことが判明しました。母親の財産は、母親の財産は都内にある自宅の土地建物、他県にある貸駐車場用地、預貯金、生命保険で、合わせて2億8,000万円超。基礎控除額では、控除しきれず、課税遺産総額は約2億円を上回りました。「せっかく養子縁組したのに」と大谷さんはがっかりしてしまいました。
課税遺産総額が予想以上に多くなってしまったおもな要因は、大谷さんが、母親と同居していないうえ、貸地に貸家が建っていなかったため、「小規模宅地等の特例」や「貸家建付地による評価減」の特例が適用できなかったことです。
「小規模宅地等の特例」とは、簡単に説明すると、被相続人と一緒に住んでいた土地を相続したのであれば330㎡までは評価額を80%減額、貸家を建てている土地だと200㎡まで評価額を50%減とする制度です(それぞれ要件有)。今回のケースは、貸家建付地による評価額の計算(※)も適用にならないので、評価額を減額うることが難しくなってしまったのです。
※貸家建付地の評価方法は次の算式のとおりです。
貸家建付地評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)
注1)借地権割合は地域により異なり、路線価図に記載されています。
注2)賃貸割合とは、課税時期においてその家屋のうち実際に賃貸している部分の割合(面積割合)です。
※借家権割合は30%としています。
資産組み替えにより相続税評価額を下げることに成功
以上のことから、大谷さん一家にとって、ベストな相続対策は、収益用のマンションを購入することでした。貸地は、自宅から離れているため、管理が大変なと、貸地にマンションを建てても、立地が良くないので、空室が発生するリスクがあることなどから、手放すことにしました。
売却益と手持ちの現金で、都内にある区分所有マンションを相続人の数だけ、つまり3部屋購入。このマンションは、駅に近い23区内に位置するので、賃貸ニーズが見込め、空室リスクも少ないと判断しました。同じような資産価値の物件を3部屋購入するので、遺産分割協議の際に、揉め事が起こりにくいのがメリットです。
また、区分所有マンションは、一般的に、一戸建て土地の評価額に比べ安いのが特徴です。そのために、相続税対策にはおすすめの物件です。聡明な大谷さんの母親は、これらのことをきちんと理解し、貸地を売却。マンションを自分名義で購入したあとで、遺言を作成しました。大谷さん、母親、娘、兄、4人の円満な関係は現在も続いています。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。