少子高齢化の影響などを背景に転職者の平均年齢はあがっているものの、35歳を超えると転職の難易度は一気に上がります。その要因の一つに「バイアス(偏向・先入観)のワナ」があると、大手転職サイトの元編集長、黒田真行氏はいいます。35歳以上の転職を邪魔する「バイアスのワナ」とは具体的にどのようなことを指すのか、事例を踏まえて見ていきましょう。※本連載は、黒田真行氏の著書『35歳からの後悔しない転職ノート』を一部抜粋・再編集したものです。
大手転職サイトの元編集長が語る「35歳以上のエリートほど嵌るワナ」 (※写真はイメージです/PIXTA)

エリートが簡単にバイアスのワナにはまってしまうワケ

転職するなら上場企業以外は候補にもならない。

 

今の役職や年収が下がる転職なんてあり得ない。

 

規模の小さな会社なら自分はいくらでも活躍できる……。

 

転職相談を受けるなかで、こんなふうに言われるケースもあります。

 

上場企業で働かなければいけないという理由はいったい何なのか。上場企業でなければ候補にもならないのは、なぜなのか。なぜ、上場企業がいいのか。質問してみましたが、明確な答えはありませんでした。

 

役職や年収が下がる転職はなぜありえないのか。役職や給料を決めるのは、働く自分ではなく、雇ってくれる会社です。どうして需給で決まる雇用市場の原則に目がいかないのか。譲れない、というのは、どういうことなのか。

 

大企業でずっと購買部長をやってきたから、中小企業の購買部門に行ってコストを下げる方法を教えてやってもいい、とおっしゃる方もいます。有名企業の購買部長であれば立場も強いでしょう。巨額の商売のために、仕入れ先から接待を受けるということが当たり前だった時代もあります。

 

そういう方が、ロットの少ない中小企業の購買部門で、業務を理解し、途切れることなく資材を購入する責任を果たせるかどうか、私はとても確信が持てませんでした。

 

認知バイアスは、成功体験が作り上げていることが少なくありません。一流の学校に進み、一流の会社に入った人は、それが当たり前になる。それ以外は認められなくなる。会社から期待されている自分だけを見るようになる。もともと優秀だった人たちが、知らず知らずのうちに冷静さを失っていく。バイアスに歪められていく。

 

いや、自分はそんなことにはなっていない。バイアスになど左右されずに正しく情報を選んでいる、と言う人もいます。

 

しかし、なんらかの認知バイアスがなければ情報選択はできませんから、私たちは気がつかないうちに読みたい情報、見たい情報だけを見ているのです。その状態が続いていくことで、バイアスはさらに強固になっていきます。

 

正しい判断をしていくためには、この認知バイアスと戦わなければなりません。

 

それ以前に、自分がバイアスに影響を受けていることを認めなければ始まりません。

 

しかし、自分が影響を受けている認知バイアスを認め、それを壊すことができれば、これまで想像もつかなかったアイディアが浮かんでくることがあります。認知バイアスを壊すことが結果的にイノベーションにもつながっていくわけです。

 

海上ルートしかなかった時代に、アフリカ大陸を周回する船が、どうやって安全に航海するかを考えたとき、アフリカ大陸を回らずに、大陸の最も細い部分にスエズ運河を造ることを提案した人たちがいたのです。

 

年齢を経ても柔軟な発想を持ち、優れた結果を残している人たちは皆、認知バイアスや固定概念を打ち消す努力を継続できているのだと思います。

 

認知バイアスを破ろうとし、自分の判断は本当に正しいのかと常に疑う。今の怒りはどんな理由によるものなのか、どんな体験によるものなのか、いつも考えている。正しい判断をすることに極めて貪欲な傾向があります。

 

自分自身を冷静に見られる力を、「メタ認知力」といいます。このメタ認知力を高めるために、ちょっと難しいワークに挑んでもらえたらと思います。

 

[図表1]自分のなかにある固定観念やバイアスを探る
[図表1]自分のなかにある固定観念やバイアスを探る

 

 

黒田 真行

ルーセントドアーズ株式会社

代表取締役