創業300年以上の大丸松坂屋百貨店やPARCO、GINZA SIXなどを傘下に持つJFR(J.フロント リテイリング)グループにおいて、決済・金融部門を担うJFRカード株式会社。今年1月、全面的にリニューアルした大丸松坂屋カードを発表した。その狙いと百貨店ビジネスにおける金融事業の可能性とは? 同社代表取締役社長の二之部守氏に伺った。

百貨店カードの全面リニューアルは14年ぶり

――今回、新しく大丸松坂屋カードを発表した狙いについてお聞かせください。

 

大きくは3つあります。

 

第一に、従来の百貨店カードのモデルチェンジです。これまでマイナーチェンジはあったものの、抜本的な見直しは14年ぶりになります。

 

競合他社はもちろん、クレジット業界全体の動きをみつつ、「QIRAポイント」というサービスを新たに加えました。これは従来の百貨店ポイントとは別にカードポイントがダブルで貯まり、Tポイントや楽天ポイントなどへの移行もできるものです。

 

第二に、顧客層の変化への対応です。社会の高齢化にともない、我々のカード利用者も50代以上が中心になっています。一方、店舗には質の高い食品、化粧品などを求めて若いお客様もいらっしゃっており、将来に向けそうした層を取り込んでいく必要があります。大丸松坂屋カードはメインターゲットを30代女性に設定し、クレジットカードで一般的な旅行や食事での特典のほか、健康や美容に関する特典を盛り込みました。

 

第三に、コミュニケーションの刷新です。ホームページを全面的に見直し、ヨガなどのウェルネス系や金融リテラシーなど動画コンテンツの配信を始めました。また、フェイスブック、ツィッター、インスタグラムといったSNSのアカウントを立ち上げ、そちらからの情報発信も強化しています。

 

――コロナ禍において百貨店業界は大きな影響を受け、また以前から小売業界の構造変化も進んでいます。JFRグループは、どのように対応していこうとしていらっしゃるのでしょうか。

 

もともと百貨店は、海外の品物が手に入らなかったり海外旅行が難しかったりした時代、ブランド品をはじめ様々なモノを仕入れ、並べて売るというビジネスモデルでした。従来のビジネスモデルで生き残ることは不可能です。

 

JFRグループは、百貨店業界の中では比較的早くからビジネスモデルの変革に取り組んできましたが、まだ道半ばです。

 

この春、新たな中期経営計画において、グループが保有する不動産資産を有効活用する「デベロッパー戦略」、店舗を起点としたデジタル活用で新たな体験価値を創出する「リアル×デジタル戦略」、上質なライフスタイルを楽しむ生活者への提案強化を図る「プライムライフ戦略」の3つを打ち出しました。

 

特に重要なのが「デベロッパー戦略」です。百貨店や小売といった枠を超え、地域全体の価値創造を図っていくのがその狙いです。

 

店舗単位では最近、市立図書館とともに進学塾や英会話教室などを同じフロアに誘致したケース(大丸須磨店)がありますし、審美歯科や皮膚科、婦人科などを一つのフロアに集めた医療モールを設ける計画も進んでいます。

 

より大規模な取り組みとしては、名古屋市栄三丁目において名古屋市などとともに大型複合施設を開発し、松坂屋名古屋店や名古屋パルコ、さらには地元商店街との相乗効果を図りながら、栄地区の賑わい創出とブランド力アップを目指すプロジェクトがスタートします(2026年開業予定)。

 

JFRカード株式会社 代表取締役社長 二之部守氏
JFRカード株式会社 代表取締役社長 二之部守氏

老舗百貨店グループの改革…金融が推進役となる

――そうしたグループ全体の取り組みにおいて、カード会社としてどのような役割を果たしていくお考えでしょうか。

 

ひとつは、グループ全体の様々な事業をつなげていく役割です。

 

当グループは複数のブランドで店舗を展開し、これから新しい商業施設も加わり、さらに各地域の商店街との連携も進めていきます。そうした中で、クレジットカードとポイントシステムによってお客さまの回遊を促し、楽しい顧客体験と地域活性化を実現するハブ機能を発揮したいと思っています。

 

決済や金融はデジタル化が進み、新規参入も容易です。しかし、我々の特徴はリアルビジネスをベースにしていることです。リアルな拠点とデジタルを組み合わせて顧客の維持拡大を図るアプローチは、Amazonや楽天、Yahoo!などのIT大手でもなかなかできない強みではないかと自負しています。

 

もうひとつは、グループの顧客基盤に新しい金融サービスを提供していく役割です。

 

資産運用、資産継承、相続対策などに関連した金融サービスはこれまで、銀行や証券会社、保険会社が得意としてきました。しかし、最近は若い世代を中心に既存のこうしたプレイヤーに必ずしも満足していない傾向もあります。

 

確かに金融サービスは競争の激しい世界ですが、チャンスがないわけではありません。我々の狙いは、従来の金融機関ではあまりできていなかった「ライフスタイルアプローチ」です。百貨店がこれまで築いてきた信用とネットワークをベースに、お客様のニーズに応える商品やサービスを提案していきます。

 

そのため現在、グループ全体にまたがる統合顧客データベースの構築を進めるとともに、金融商品のクロスセルに向け、保険・金融商品の紹介やコンサルティングサービスを開始しています。

 

――百貨店の顧客基盤というと、外商部門が得意とする富裕層や資産家が注目されます。

 

そこは我々ももちろん、重視しています。

 

たとえば、この2月にオリックス・クレジットと業務提携し、「QIRAローン」というカードローンサービスを始めました。すでに当社のカードを持っていらっしゃる中小企業経営者などのお客様へ紹介したところ、「大丸松坂屋がやっているローンなら安心だね」という声をいただいたりしています。

 

今後、「QIRA」をベースブランドとして、クレジットカードやローンだけでなく保険、リバースモーゲージ、リースバックなど幅広い金融商品やサービスを開発していく予定です。

 

こうした挑戦により、グループを支える新たな事業の柱をつくるとともに、グループ全体の改革の推進役になっていきたいと考えています。

取材・文/古井一匡 撮影/上條伸彦(人物)

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