外資畑から老舗百貨店グループのトップへ
――一貫して外資系でキャリアを積み重ねてこられました。それが一転、老舗百貨店グループに移られたのはどういう経緯だったのでしょうか。
大学卒業後、アメリカン・エキスプレスに入社して21年ほど勤め、その後もリシュモン・ジャパン(カルティエ・ビジネスユニット)、VISAと外資系を歩き、自らコンサルティング会社を立ち上げたりもしていました。
そこに4年ほど前、人材会社からJFRカードが新しいトップを探しているという話があったのです。当時のJ.フロント社長で現在はJFR(グループ持株会社)の取締役会議長である山本良一さんが、決済・金融事業を立て直すため外部からクレジットカードビジネスに詳しい人材を登用したいということでした。
社長就任にあたって山本さんと面談した時に言われたのは、「君を招いたのは、カードビジネスをよく知っている人間に経営を任せたかったことと、もうひとつは“異分子結合”のためだ。JFRカードを思い切って変革し、決済・金融ビジネスを大きくしてほしい」ということでした。
山本さんは早くからグループ経営に関しても、生え抜きだけでやっていてはダメだと言い続けてきた人で、積極的に外部の人材を登用していました。とはいえ、外資の経験しかないのは私が初めてで、その大胆さにはこちらが驚いたというのが正直なところです。
――社長に就任されてから、どのような変革を行ってこられたのですか。
以前のJFRカードは、大阪の高槻(本社)にしか拠点がなく、百貨店出身者が経営にあたっていました。クレジットカードや金融の経験者はほぼいなかったのです。そのため、グループ全体のカード事業をうまくとりまとめることができずにいました。
社長に就任してから、まずは東京にオフィスを設け、人材を集めることから始めました。決済系の新しいテクノロジーがわかる人材、マーケティングに精通した人材、ウェブやSNS、アプリをつくれる人材などを採用し、ようやくデジタル技術を駆使した新たなサービス開発や、決済サービスを通じて取得したデータの活用などに本格的に取り組めるようになってきたところです。
人材集めと並行して、決済・金融事業についての新しいビジョンの取りまとめも急ピッチで進め、今回の百貨店カードのリニューアル(大丸松坂屋カード)や新しいポイントプログラム(「QIRAポイント」)がその第一弾となりました。
これからいよいよ、ビジョンの実行段階に入るところです。
当たり前は本当に正しいのか…異分子が老舗を変える
――親会社であるJFRの執行役も務めていらっしゃいますね。
経営会議の末席に座る執行役ですが、言うべきことは言うようにしています。外部から来た人間だからこそ見えること、提言できることがあると考えているからです。
そもそも外資系では、会議に出て何も発言しない人間はそこにいる意味がないとみなされます。日々の業務も、1年後の目標をいかに半年で達成するか、工夫と実践が求められます。長年の間に染み込んだそうした発想やスタンスは、いまも持ち続けています。
服装も外資流です。初めて親会社の経営会議に出たときだけはネクタイをしていきましたが、それ以降はいつもジーンズにノータイです。
周りからは「議長もネクタイなんだから」という声が聞こえたりもしましたが、いまはなくなりました。「君は若いね」と言われた時は、「若い会社にしたいので」と答えていました。
――老舗百貨店グループにおいて、二之部さんの存在はインパクトがありますね。
私は常々、「百貨店の常識は世間の非常識」と言っています。
大丸百貨店は300年、松坂屋は400年という歴史があり、その信用力は高く、社員のホスピタリティも素晴らしい。
しかし、グループ全体を変えていこう、新しいことに挑戦しようというとき、これまでの常識が邪魔していることも多いのではないかと感じるからです。
今まで当たり前と思ってやってきたことが本当に正しいことなのか、お客様のためになっているのか疑い、臨機応変に見直していくことがこれからの時代、ますます大切になっていくと思うのです。
そのきっかけになることが、私がいまここにいる役目だと自分に言い聞かせています。
――ビジネスにおいていつも心がけていること、目指していることは何でしょうか。
人生においても仕事においても、ひと言でいえば「楽しく」ということです。それには誰かの言うことにひきずられるのではなく、“自分の意志”でやることが大切で、それが楽しさの根源だと思います。
JFRカードの社長に就いた当初、男性社員は全員ネクタイをしていましたが、私を見習ってかいまではみんなノーネクタイにスニーカーといった感じです。
企業文化やビジネスのプロセスを変えるのは一朝一夕にはできませんが、服装ならすぐ変えられます。見た目が変わると意識も比較的、簡単に変わるものです。
ただ、組織としてのベクトルを合わせるのは、当社のような小規模な会社でもなかなか難しく、いまはそちらに注力しています。
経営者として心が折れそうになることもありますが、目指したいところがある以上、そこへ向かって準備し、挑戦し、失敗から学んで、また進む。だから楽しいのです。
これからも楽しく、全力で挑戦を続けていきます。