採用基準は「いまいる従業員たちと合う人」
佰食屋の採用基準は、「いまいる従業員たちと合う人」。それだけです。
面接では、一人につき1時間くらいかけて、どんなふうに働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか、じっくりと話を聞きます。
そしてその人が「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」と考えているのなら、「きっとうちの会社では物足りないと思う」と率直に話します。「100食限定」と決めているのに、「もっと売りませんか?」というそのアイデアで、いまいる従業員たちを困らせたくないのです。そうやって説明すると、その方も「じゃあ、ほかを受けてみます」と納得してくれます。
そんなふうに、一人ひとりときちんと向き合って、面接を行なっています。
佰食屋で採用するのは、どちらかというと、人前で話したり面接で自己PRしたりするのが苦手で…つまり、ほかの企業では採用されにくいような人です。
わたしたちが「従業員第1号」として採用したSくんも、そういう人でした。
10人ほど面接に来られたのですが、Sくんはなんと、履歴書を忘れてきたのです。「あなたは…どなたですか?」からはじまる面接なんて、後にも先にもあれっきりです。
彼は、調理師の免許こそ持っていましたが、コミュニケーションが苦手で、おとなしくて、人の目を見て話すことができない人でした。
面接したなかには飲食経験者も多く、「大手ファミレスチェーン店でエリアマネージャーをやっていた」という人もいました。けれどもわたしは、Sくんを採用したのです。
その1ヵ月後に採用したYさん。彼女もまた、面接では緊張しすぎて、ちっとも目を合わせてくれず、なにか尋ねても、ボソボソッと答えるような人でした。「いつか自分でカフェを開きたい」という夢を持っていたにもかかわらず、カフェのアルバイトに応募しても、面接で落とされるばかりだったのです。
ではなぜ、佰食屋はそんな二人を採用したのか。佰食屋には、「アイデア」も「経験」も「コミュニケーション力」も必要ないからです。
まず、佰食屋のメニューは年中同じです。ですから、「季節限定のメニューを出せばもっと売れるんじゃないですか?」と新しいアイデアを考える人にとっては、少し退屈な会社かもしれません。そして、メニューはたった3種類です。ですから、厨房でも接客でも、マニュアルがなくてもわかるくらい、すぐに仕事を覚えることができます。ですから、経験は必要ありません。
佰食屋では、入社すると1週間ほど店舗に入って、先輩従業員がやっているのと同じ仕事をしてもらいます。
今日は厨房、その次は接客、と担当範囲を変えていって、仕事を真似してもらうのです。それを1日100食分、つまり「1日100回同じことを繰り返す」ので、やっているうちに体で自然と覚えていくことができます。
また、メニューは3店舗ともA、B、Cにしてあるので、誰でもわかるようになっています。日本語・英語・中国語・韓国語の4ヵ国語で書かれてあるので、いきなり外国人のお客様をご案内しても、指差しだけで伝わります。最後に、佰食屋は1日100食以上なにがあっても売りません。ですから、店頭に出て呼び込みをする、といったちょっと勇気がいることもする必要はありません。
結果として、佰食屋が採用した従業員はみんな、話すのがちょっと苦手で、ちょっと不器用で、そんな愛すべき人ばかりです。
みんな、言われたことをきちんと真面目にしてくれるし、毎日同じ仕事を黙々とこなすことが得意ですし、どんなお客様にも丁寧に接してくれます。やさしくて、本当にいい方ばかりです。
それが、佰食屋にとっての「仕事ができる人」なのです。ビジネス書ではよく、従業員の主体性を引き出す方法や、アイデアを生み出す方法について語られています。けれども、みんながみんな、そういう人になる必要がありますか?
コツコツと丁寧に、毎日決められたことを、きちんとやる。むしろそっちのほうが得意だ、という人も多いのではないでしょうか。「コミュニケーション力がある」ことは、あくまで一人ひとりが持っている「得意なこと」の1つに過ぎない。そして、得意なことは人それぞれ違うのです。
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