(※写真はイメージです/PIXTA)

山田さんは、大学病院に勤める麻酔科医です。複数の病院を掛け持ちし、都内を飛び回っているのに加え、緊急手術になり急に呼び出されることもあり、自宅にいる時間がとても少なく、多忙な生活を送っていました。30代から50代半ばになるまで、ずっと、そんな生活を送っていた間、となり町に住んでいる父を介護したのは山田さんの妻Bでした。父親は昨年他界しましたが、その最期を看取ったBの働きぶりには、山田さんも、山田さんの母親も、頭があがりません。いっぽう、山田さんの姉Aは、車で10分のところに住んでいるにも関わらず、盆と正月以外、ほとんど顔を見せることはありませんでした。

妻に財産を渡すための方法は?

事の発端は、山田さんの母親が、Bが献身的に自分の夫の介護をしているのに、Aは人ごとのように、振る舞ったことに不満を持っていて、正月の集まりの際に自分が他界した後の財産について話題にしたことでした。自分が介護状態になったときにも、同じように、Bが中心になって介護をしてくれることは目に見えているため、「自分が生きているうちは、介護の費用がいくらかかるか分からないので渡せないが、他界した際は、Bがたくさん自分の財産をもらえるようにしたい」とみんなの前で話したのです。

 

山田さんは、多忙で、十分に父親の面倒を見られなかったことを認め、「そうすべきだ」と心から思ったのですが、Aは面白くありません。法定相続になった場合は、等分に財産を分けるべきだとAは主張しました。それを聞いたBが今度は不機嫌になってしまいました。「自分は仕事を休んでまで、父親の介護をしてきた。母親が申し出ているのだから、財産を多くもらうのは当然だ」と主張しました。さらに母親は「自分の財産なのだから、誰がいくら、何をもらうかは自分が決めたい」と言いだし、山田さんは、板挟みになり、困ってしまいました。

家族信託と遺言で、財産を渡す人を指定

山田さんの母親の財産は不動産が大きなウェイトを占めています。とくに、一部上場企業に貸している「貸地」は評価額も高く、解約リスクも少ない優良資産です。そこで、選んだのは、「家族信託」でした。この制度には、二次相続や三次相続までを想定して信託期間の指定ができる「受益者連続型信託」というものがあります。貸地を信託財産にし、母親が存命のうちは、受益者と委託者を母親に、委託者をBにするのです。相続発生後は、賃料は母親に渡し、相続が発生したら、受益者はBに設定。この土地は、先祖代々受け継いだ土地なので、Bが亡くなった後は、Bの長男Cに受け継いでもらいたいという意向が母親にはありました。そのため、次の受益者をCに設定することにしました。

 

遺言書は本人が亡くなった後に効力を発揮しますが、家族信託は、本人が存命のうちから、効力を発揮させることができる、2次相続、3次相続の際に承継する人を指定できるのがメリットです。しかし、用いるスキームによっては、「遺留分は侵害できない」「贈与税がかかる場合がある」などのリスクがありますので、専門家に相談して信託設定は行うようにしてください。

2019年に新設された「特別寄与料」

2019年7月1日に新設された「特別寄与料」という制度を利用して解決する方法もあります。制度創設により、法定相続人以外の親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)が相続人に金銭を請求できるようになりました。介護した長男の嫁などの貢献が報われるためのもので、相続人が合意し、遺産分割協議に反映させてもらうことができるのです。合意が得られない場合は、家庭裁判所が審判することになりますが、制度創設により、Bさんのような人にスポットライトが当たり、世間の意識が変わることは、望ましいことと思います。

 

特別寄与料の請求は、相続が開始したこと及び相続人を知った時から6か月以内、または相続開始から1年以内と決められています。期限内に行わなければ無効になりますし、かかった費用の領収書など、寄与したことを証明する書類をとっておくなどの注意点もあります。始まったばかりの制度で、使いにくいという声もあがっているようですが、今回のようなケースが起こるのではないか、という家庭は、ぜひ知っておいてもらいたい制度です。

 

山田さんのお宅は、母親が家族信託制度を使いたいと言い出したことで、姉の態度が協力的になり、「受益者を母親→B→Cとする」ことに同意してくれました。さらに、相続についてそれぞれが真剣に話し合い、関係者全員が納得したうえで、遺言書も作りました。山田さんの苦悩はこれらのことにより、和らいだのです。
 

 

 

※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。

 

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