相続は誰にでも発生する問題ですが、関連する法律(民法や税法)の理解は決して易しいものではありません。本連載は、弁護士・山下江氏の編著書、『相続・遺言のポイント50』(南々社)の中から一部を抜粋し、遺産分割や遺言に関するポイントをやさしく解説していきます。

不公平の是正が目的の「特別受益」という制度

特定の相続人が、被相続人の遺言により財産を取得した場合(「遺贈(いぞう)」といいます)、あるいは生前に贈与を受けていた場合、分割の対象となる遺産を単純に法定相続分に従って分割すると、不公平になってしまいます。これを是正しようとするのが特別受益の制度です。

 

すなわち、遺贈や贈与を受けた相続人は、その価額を相続分から差し引かれることになります(計算方法は後述)。

 

ただし、遺贈や贈与が相続分より多い場合でも、超過分の返還は不要です。

「特別受益」に該当するものとは?

特別受益に該当するのは、以下の場合です。生前贈与は、すべてが特別受益に該当するわけではありません。被相続人の資産・収入、社会的地位など個別具体的な事情を基に判断します。

 

1.遺贈

 

遺言により財産を取得した場合で、全てが特別受益に該当します。

 

2.婚姻・養子縁組のための贈与

 

持参金、支度金、花嫁道具などが該当します。

 

3.生計の資本としての贈与

 

例えば、以下のような場合が問題となります。

 

①不動産、住宅資金、営業資金の贈与

特別受益に該当します。

 

②遺産の無償使用

例えば、遺産である土地の上に相続人の1人が被相続人の許可を得て建物を建て、その土地を無償で使用している場合、土地使用借権の生前贈与があったとして、特別受益に該当すると考えられます。

 

これに対して、被相続人の建物に無償で居住していた場合でも、被相続人と同居していたのであれば特別受益には該当しません。

 

③学費

大学進学費用であれば全て該当するわけではありません。兄弟のうち1人だけ進学した、私立大学医学部のように特別に高額な学費がかかった場合などに限られます。また、相続人全員が大学に進学した場合は、特別受益に該当しないと考えることになります。

 

④生命保険金

相続人の1人が受取人となっている生命保険金は、原則として特別受益とはなりません。ただし、保険金の受取人である相続人とほかの相続人との間に生じる不公平が著しいと考えられるときには、特別受益に準じて取り扱うことになります。

 

 

具体的な計算方法については、次回に続きます。

 

イラスト/momonga

 

本連載は、2016年5月20日刊行の書籍『相続・遺言のポイント50』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続・遺言のポイント50

相続・遺言のポイント50

山下 江 編著

南々社

相続に関する法律は少々複雑であり、これらを直接読んで理解するのは困難です。しかし、相続は誰にでも発生する問題であり、誰もが理解しておくべき事柄だといえます。 相続の本の中で、一番わかりやすい内容を目指した本書は…

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