今回は、遺言よりも活用の幅が広い「家族信託制度」について、具体的な使用例を挙げて解説します。※本連載は、弁護士・山下江氏の著書、『相続・遺言のポイント50』南々社)の中から一部を抜粋し、相続・遺言書の意外に知られていない、財産分与に関連のある法律についてわかりやすく解説します。

先祖代々の資産が「妻の家系」へ・・・

「信託」とは文字通り「信」じて「託」す仕組みです。「家族信託」は信頼できる家族に託すことで、大切な財産を守ったり、有効に活用したり、スムーズに引き継ぐことができる新しい制度です。

 

具体的には財産を持っている人(例:父親)が、特定の目的(例:「老後の生活・介護などに必要なお金の管理および給付」など)に従って、その保有する不動産・預貯金などの資産を信頼できる家族(例:長男)に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。

 

家族信託の仕組みを理解するためには、まず次の3者の登場人物を押さえましょう。なお、この3者は、別々の人である必要はありません。

 

①委託者・・・財産を託す人

②受託者・・・託されて財産の管理や処分をする人

③受益者・・・信託された財産から生まれる利益を受取る人

 

この仕組みを使って、これまで遺言書ではできなかったことも可能になります。

 

子のいない夫婦の例を考えてみましょう。夫は自分が死んだらすべての財産を妻に相続させたいと考えていましたが、財産の中には先祖代々引き継いできた不動産がありました。妻がすべての財産を相続して、その後亡くなれば先祖代々の資産は妻の家系が引き継ぐことになります。

 

妻の生活は守りたい一方で、先祖代々の資産が他家に流れることには抵抗があったので、妻亡き後は自分の弟に引き継いでもらいたいと考えていました。「妻にすべて相続させる」というのは遺言書でかなえられます。しかし、加えて「妻が亡くなったら弟に相続させる」と指定したとしてもその部分は無効となります。

信託なら、二次相続以降の相続についても指定可能

上記のケースも家族信託の仕組みを活用することで解決できます。

 

まず、夫が委託者となり、弟を受託者として信託契約を締結します。これにより、財産の名義は弟に移ります。夫が生きている間、託した財産(信託財産)から得られる利益を受け取る人(受益者)は夫自身に設定しておくことで、財産の名義が変わっても現状とほとんど変わらない状態となります。

 

夫が死亡したら、「受益者」を夫から妻に変更することを定めておけば妻は安心して生活ができます。そして、妻の死亡により信託が終了するように定め、残った財産の帰属先を弟に指定しておけば、先祖から受け継いだ大切な資産が他家に流れることを防ぐことができるのです。

 

[図表]家族信託制度

 

イラスト/momonga

 

◆まとめ◆

家族信託は財産を「守る」「活用する」「引き継ぐ」ことができる新しい仕組みです。遺言書では二次相続以降の相続について指定することができませんが、家族信託の仕組みを活用することで可能になります。

本連載は、2016年5月20日刊行の書籍『相続・遺言のポイント50』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続・遺言のポイント50

相続・遺言のポイント50

山下 江 編著

南々社

相続に関する法律は少々複雑であり、これらを直接読んで理解するのは困難です。しかし、相続は誰にでも発生する問題であり、誰もが理解しておくべき事柄だといえます。 相続の本の中で、一番わかりやすい内容を目指した本書は…

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