一等地に持っていたテナントビルの売却で、相続税が…
テナントの固定資産税は決して安くはありませんが、利回り4%で運営でき、満足していました。しかし、コロナウィルス感染拡大のため、テナントは、みるみるうちに空室になってしまいました。それに加えて、屋上防水や水道配管の劣化により、雨漏りや漏水が起こりはじめ、多額のメンテナンス費がかかってしまいました。Kさんは「この物件は自分にとって負の財産なのではないか」と考えるようになり、昨年末、テナントを売却することになってしまいました。
「先祖から受け継いだ土地を自分の代で手放すことに対する負い目はありましたが、精神的な不安と焦りで、テナントを売却することを選んでしまった」とKさん。
テナントの売却額は、1億5,000万円。一見、資産が増えたように思えましたが、実はそうではありませんでした。数千万の譲渡所得税として多額のお金を納めることになり、相続税は、売却前に試算もらっていた金額よりも1,000万円増税になることが分かりました。Kさんは、保有資産が少なくなることが怖くて不動産を売却したのに、その行動は資産を減らすものとなってしまったのです。
不動産には、多くの相続税評価額の減額特例が
相続税の申告は、「相続税評価額」をもとに行います。財産を「相続税評価額」として評価をする際、現金や株式などの金融資産は、額面通りの評価となります。もし、1億5,000万円の現金が手元に入ったら、相続税評価額も同額です。不動産の場合は、相続税路線価に基づき計算するため、それよりも少ない額で評価されるケースがほとんどです。その理由は、「相続税路線価」が、売却価格より、2、3割安くなっているから。そのために、不動産は金融資産に比べ安い価格で評価されるのです。
また、相続税評価額は相続税評価額を算出する際の優遇措置は、不動産に関するものが多く、Kさんの土地ならば、「貸家建付け地評価」「小規模宅地の評価の特例」などが適用になり、節税ができるのです。
「貸家建付地評価」とは、「小規模宅地の評価の特例」は、相続人の生活や事業を守るため、被相続人や親族の居住用もしくは事業用等として使っていた宅地の評価額について、被相続人が残した宅地全体の一部につき、評価額を80%または50%減額する特例です。「貸家建付地評価」とは、自己居住であった場合の相続税評価額から自己居住であった場合の相続税評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合を引いた額を評価額とする特例です。
売却より不動産の資産組み替えが相続税対策になる
Kさんが、テナントの空室リスクと老朽化を理由に売却をしたことは間違っているとは思いません。しかし、現金で保有するのではなく、一歩踏み込んで、別の不動産を購入することを行ったほうが、さらによかったのではないかと思います。買い替え用の不動産を選ぶ際に、頭に入れていただきたい事は、おもに次のことです。
1.土地面積が小さければ、評価額も安くなる
同エリアで市場価格が同じの大邸宅と区分所有のマンションなら、区分所有のマンションのほうが、評価額が安くなります。要件を満たせば、「小規模宅地の評価の特例」も使えます。
2.賃貸用不動産にすれば、相続税評価額の減額の特例がさらに多く使える
「貸家建付地評価」の特例など、賃貸用不動産を購入すれば、さらに多くの相続税評価額の減額の特例が使えます。また、相続対策ではありませんが、テナントを経営していたときと同程度の利回りで家賃収入を得ることも現実的でしょう。
3.相続人の数に応じて複数の不動産を保有する方法もある
資産を不動産で所有すると、相続が発生した際に、分割しにくいから嫌だ、という人がいます。確かに保有する不動産が1つしかない、複数保有しているが立地環境も評価額も違うという場合は、遺産分割しにくく、トラブルになりやすいです。そのような場合は、区分所有マンションを相続人の数だけ保有するのも1つの方法です。評価額、立地がほぼ同じになるため、トラブルになりにくく、1つの不動産を共有名義で所有する場合に比べ、売却の手続きも簡単です。
Kさんは、将来相続人になる予定の妻と2人の子どものために、売却益で都内にある3つの単身用区分マンションを購入することにしました。現在は、3部屋とも賃貸中で、収益も発生しています。再度不動産として資産を保有したことで、相続税評価額を下げることができました。まだ、若いKさんは、返済の見込みが十分あるために、このマンション購入のために借り入れも金融機関から行いました。負債を作ったことで、更に評価額が下がり、結果、1,000万円かかると試算されていた相続税は、ゼロ円になりました。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。