「老老化」が進み、節税策が無駄になるケースが増加
「やれやれだな」
テーブルの前に坐り直して源太郎はため息をついた。老いるとはこういうことなのかもしれない。由井からはすべての可能性に備えるのが相続と聞いた。その際気になることを言っていた。
「ローロー相続ってか・・・」
茶化して呟いてみたが、やっぱり気が重くなる言葉だ。年老いた親をこれまた年老いてしまった子供が介護する「老老介護」は新聞やテレビニュースでもたびたび取り上げられている。相続も同じく「老老化」しているというのだ。
相続人の誰かが認知症を発症していたら法律行為ができない。遺産分割に同意することも不可能らしい。成年後見人などを立てることになるが、そのためには膨大な手間とかなり長い時間がかかる。
相続税は相続発生から10か月以内に納めなければならない。それまでに分割できず相続税が支払えない場合には、たとえ節税策を工夫していたとしても多くが無効になってしまう。相続人が争った場合と同じだ。
「あらゆる事態」を想定して相続に備える
誰が悪いわけでもない。ただ歳をとっただけでそんなことが起きるなんて・・・。
いや、ただ嘆いている場合ではない。せっかく相続対策をしっかり実現して子供たちに明るい未来をと努力しているのだ。悲劇の可能性に思い至ったのなら、それを防ぐ方法を考えないでどうする。
子供たちの認知症はどうしようもないが、自分が発症した場合くらいは想定して備えておかねば。
「なあ、美千子・・・」
「はいはい。また由井先生でしょ」
さすがに長年連れ添ってきただけのことはある。
「面談、いつにしてもらいます?」
「できるだけ早くがいいな」