「30年の間」なら何代でも後継者を指名可能
「相続について、もう一つ懸念されていることがありますよね」
「ああ、雄二の次をどうするかだな」
「そちらも信託で解決することができます」
「どういうことだ? 俺が雄二の次の社長を決められるのかい? たしか遺言書では、俺が死んだ時の一回しかそういった指示ができないんだよな。それが信託ではできるのか?」
「ええ。信託契約は30年間にわたって効力を持ちます。その間でしたら、次の次、その次という風に何代でも指名することができるのです。これを『跡継ぎ遺贈型受益者連続信託』と呼び、遺言代用信託と同様に設定することができます」
信頼できる家族を「自ら」後継者に指定できる
退院してから武雄は孫の雄太を呼び、将来はどうしたいのか訊ねてみた。もともと高校の成績もいいと聞いている。大学に進んで何かやりたいことがあるのだろうと思っていたが、意外にも雄太は熊田メッキで働きたいと言ってくれた。
「いずれは祐希がここを継ぐんでしょう? その助けになれたらと思って」
そのため大学では経済学部に進んで経営学を学びたいという。
「祖父ちゃんは、雄二の次には、祐希ではなくお前に社長をやって欲しい」
武雄が正直に思いを告げると、少し考えてから雄太はうなずいた。
「祐希は、本当はやりたくないみたいだしね」
「そんなことを言ってるのか?」
「あ、うん」
珍しく怒りをにじませて雄太が言った。
「工場なんてダサいって言うんだ」
「まあ、オシャレじゃないわな」
「それがいいんだよ」
口を尖らせる雄太を見て、武雄は強く願った。次男の次は、長男の息子である雄太に継がせたい。難しいと思っていたが、どうやらそれができそうだ。
「手配をよろしく頼むよ」
武雄が頭を下げると、由井も深く礼を返した。
「わかりました。お任せください」
「それから先日、受け取ったアドバイスについても礼を言いたい」
『成功事例に見る会社を上手に承継するためのチェックポイント』というものだ。
(この話は次回に続きます)