承継期間は5~10年と見ておく
前回の続きです。今回は、成功事例から会社を上手に承継するためのチェックポイントを見ていきましょう。
●何歳まで社長を続けるべきか?
65歳になったら第一線から退く。事業承継の節目にはその会社の弱みが出てくるため、得意先や金融機関からの信頼を維持するためには、会長の適切なサポートが必要。承継期間を5~10年と見て決める。
●年齢以外で、社長引退を自覚する時は?
「直近の成功事例から10年以上経過している」「儲けることに執着心がなくなり、むしろ体面が気になる」「ネオン街へ行く回数が減ってきた」「疲れが長引き、つい今しがたのことを忘れるようになる」といったことが感じられた時。
●後継者選びの着眼点は?
「健康でタフ」「人見知りしない」「人を引っ張る力」「友達が多い」「複眼で対応できる」など。
●後継者が譲られて困る財産はないか?
創業時の功労社員や、社長の忠実な金庫番といった社内で大きな存在とされる人物や、その他死産、外部のしがらみ等、今後の経営で後継者を困らせる要因は整理しておく。
●本命後継者はどう育てる?
「一人暮らしをさせ、『自由は不自由である』ことを自覚させる」「海外留学させ『自分しか頼りにならない』体験をさせる」「簿記を習得させ、経営数字に強くする(日商簿記二級は必須)」など、20代でのポイントは「お金の大切さ」を教えること。
30代でのポイントは商売の「駆け引き」を身につけさせること。他人のメシを食って生活してから、自社に入社させることで「平社員の給与で生活することを知る」「人に使われる辛さを知る」「サラリーマンの面従腹背の現実を知る」などのメリットがある。また、欠点は誰でもあげられるが、現場をよく見ることで自社の強みを知ることができる。
他社修行を終えた場合、本社での下積みは不要かごく短期間でよい。創業者の理念・信条に関心を持たせ、自社の経営数字五つ以上を常に把握しておくようにさせる。
また、「会長の月命日に墓参りをする」「整理・整頓・清掃・規律といった社内の環境整備に注力させる」「始業1時間前に出社し、午前10時までにその日の仕事の段取りを完了する」などを徹底させる。これらによって、仕組みは真似されても「し続ける」ことで得られることは真似されないことを理解させる。
●父の偉大さを理解させるには?
理解するのは、後継者が50歳を過ぎてから。昔から「親の心、子知らず」という。
「これまでの経験から、私なりに見つけた注意点です。参考になればと思いまして」
「肝に銘じておくよ」
熊田はニッと笑った。
「なかなかこういった現実的なアドバイスは、誰もしてくれないものだ」
「よかったら次期社長の雄二さんにもお見せください」
「もちろんだ。孫の雄太が継ぐ時にはあいつにも読んでもらう」
中小企業経営者の相続問題を解決する「遺言代用信託」
会社経営者は二つの椅子の確保が必要です。一つ目は「社長の椅子」、二つ目は「支配者の椅子」であり、67パーセントの議決権があれば安泰です。
中小企業経営者の相続には、「多額の相続税」「後継者以外の相続人を納得させる遺産分割」「後継者難」と、大きな問題が立ちはだかります。これらを解決できる方法として注目されているのが、「遺言代用信託」です。
委託者(社長)が死亡した時に受益者となるべき者が受益権を取得する旨の定めのある信託(信託法第90条第1項第1号)、または、委託者の死亡時以降に受益者が信託財産の給付を受ける旨の定めのある信託(第2号)のことを言います。
自社株式を受益権と議決権行使の指図権に区分し、存命中は当該指図権は社長自身が持ち、亡くなった後は速やかに後継者へ引き継ぐよう信託しておくと、経営に空白期間が生じませんし、加えて孫の代の株式承継についても指定ができます(跡継ぎ遺贈型受益者連続信託)。
さらに、信託目的に反しない限り、受託者の意思で物件の売却も可能です。また、受益者を親にしておけば課税の心配もありません(自益信託)。