大河ドラマ『青天を衝け』。放送開始以降、高視聴率を維持し、俳優陣の名演が報じられるなど、世間の注目は高まる一方だ。本記事では奥野宣之氏編訳の書籍「抄訳 渋沢栄一『至誠と努力』人生と仕事、そして富についての私の考え」(実業之日本社)より一部を抜粋し、吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一が実際に記した金銭論を紹介していく。
日本経済の父・渋沢栄一が語った「富を増やすため」重視すべきこと ※画像はイメージです/PIXTA

孔子は「道徳」と同様、「経済」にも関心をもった

■仁義道徳こそ安全弁

 

旧時代のように、生産や利殖を最小限にすれば、弊害は少なくなるかもしれない。しかし、それでは国が豊かにならず、進歩も止まってしまう。

 

どこまでも富を進め、富を擁護しながら、結果として罪悪の伴わない真正な富を築こうと思ったら、どうしても守るべきひとつの主義を持たねばならない。それはすなわち、私がいつも言っている「仁義道徳」である。

 

仁義道徳と生産利殖とは決して矛盾しない。だから、この根本的な理論をハッキリさせ、「こうすれば道を踏み外さない」ということをじゅうぶんに研究しよう。その上で、私たちはびくびくせず進んでいけばいい。

 

これができれば互いに腐敗・堕落に陥るといったことはない。国家的にも個人的にも、正しいやり方で富を増やしていくことができると信じている。

 

■経済なくして道徳なし

 

孔子は切実に道徳を語っているけれど、同時に経済にも相当の関心を持っていたと思う。

 

『論語』の中に、ちらほら出てくるが、とくに『大学』では、生計や財産についての正しい道が説かれている。

 

世の中のリーダーになって政治を行うには、政務活動費はもちろん、国民の衣食住の問題も出てくる。つまり金銭と無関係ではいられない。

 

一方で、国を統治し、人心を安らかにするためには道徳が必要になる。だから道徳と経済を調和させなければならないのだ。