渋沢栄一に送られた「お叱り」の手紙
■担任からの手紙
帝国大学に籍を置いている息子がまだ小学生だった頃、担任の先生からお叱りを受けたことがある。
「男爵、あなたがどれだけ日本のために活動しておられるかはよくわかっています。しかし、もう少しお子様の将来に気を配ってもいいのでは? また、それが親として当然の務めではないでしょうか」
切実な筆跡だったので、非常に恐縮してさっそくお詫びの手紙を送ったのだった。
それ以後、子供のしつけ方ということだけは脳裏を離れなくなった。ただ、だからといってその手段や方法といったことまで気を配ることはできなかった。
それにしても、世の中にはたいへん多忙な仕事をしている方々がいる。彼らが私とおなじ轍を踏みはしないか、少し心配だ。
■卒業後に真の勉強が始まる
学校を出た後でも研究を怠らない若者は、いっときは思い通りにならないことがあっても、そのうち必ず上手くいくようになる。
たとえ学校の成績が悪くても、世の中に出てから絶えず情熱と勉強の心がけを失わないようにする――。
こういう人は、世の中に出て怠け癖がついてしまい向上心を失くした学校秀才なんかとはまったく比べ物にならない。いってしまえば学校で学ぶことは社会に出てから現実に応用していくための準備に過ぎないのだ。
■教育が元気を奪う?
私が若者と共に注意しておきたいのは次のようなことだ。こんにちの教育は、知恵をつけることにおいては上手くいっている。しかし、若者をさらに元気にするという点では、はたして上手くいっているのだろうか。
もちろん教育が元気を奪うなんてことはないだろう。けれども、私の見る限り、こんにちの若い人々は、おしなべて知恵には長たけているけれど、情熱やひたむきさに乏しい、といった面があるのだ。