渋沢栄一が語る「富」「公益」「欲望」の関係
■基本は公益性
富を築くための方法や手段は、第一に公益を旨としなければならない。人を虐(しいた)げるとか、害を与える、欺(あざむ)く、あるいは嘘をつくといったことがあってはならない。
そうして各自が、その事業に従って頭脳と心を尽くし、道理に外れないようにしながら富を増していく。これならば、どれだけ社会が発展していっても、互いに奪い合ったり、足を引っぱり合ったり、といったことは起こらないだろう。
真正な富はこうして初めて得られるものであり、継続できるものである。
■欲望と安心
どうしても人が生きていくには、「欲望」がなくてはならない。
つまり、人がイキイキしているとか、栄達を望むとかいうのは、いわゆる「欲望の表れ」であって、それにより、はじめて向上心というものが生まれる。いつの時代も、そうやって人は成長し、世の中は進化を遂げてきた。《略》
欲望は立身出世するために必要なものだ。しかし、それが行き過ぎて生じる過ちは、しばしばたいへん人を害し、世の災いとなってしまう。
だから、一方で自らの欲望を縛るルールを決めて、各々がその拠り所を明らかにしておくのだ。
そして、世の中で欲望を遂げて、さらなる向上をめざすときにも、決してルールからはみ出さないように常に修養していく――。そうすれば、自然と安心立命の境地に到達できるだろう。
渋沢 栄一
編訳:奥野 宣之