大河ドラマ『青天を衝け』。放送開始以降、高視聴率を維持し、俳優陣の名演が報じられるなど、世間の注目は高まる一方だ。本記事では奥野宣之氏編訳の書籍「抄訳 渋沢栄一『至誠と努力』人生と仕事、そして富についての私の考え」(実業之日本社)より一部を抜粋し、吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一が実際に記した金銭論を紹介していく。
日本経済の父・渋沢栄一が語った「富を増やすため」重視すべきこと ※画像はイメージです/PIXTA

商売人が『論語』を学ぶべき理由

■カネ儲けと仁義道徳とは一致する

 

孟子は「カネ儲けと仁義道徳とは一致するものである」と言った。

 

だが、その後の学者がこの二つを引き離してしまったのだ。「仁義をなせば富貴から遠ざかる」「富貴になれば仁義から遠ざかる」とされてしまった。

 

その結果、商人はバカにされ、商売なんて一人前の男がやるべきことではない、とされた。商人の側も心がねじくれて、拝金主義の一点張りとなってしまった。

 

こういうことがあったせいで経済の進歩は何十年、いや何百年遅れたのだろうか。こんな風潮はだんだんなくなりつつあるものの、まだ足りない。

 

カネ儲けと仁義の道が一致するものであることを知ってほしい。私は『論語』とソロバンとを持って、このことを教えているつもりではあるが。

 

※孟子……中国・戦国時代の思想家。孔子の教えを引き継いだ

 

■道徳は常にひとつ

 

英語新聞の記者から「商業道徳」について意見を求められたことがある。商業道徳とは一体どういう意味なのか。商業だけの道徳なんてものがあるわけがない。

 

おそらくこの記者は「商売人はある程度、普通の人よりズルをするものだ」といった昔ながらのイメージ、つまり商人蔑視の感覚で言ったに違いない。もし特別な「商業道徳」があるなら、政治道徳・学者道徳・教育道徳もなければならない。そんなバカな話があるか。

 

もちろん商人は信用を重んじなければならないわけで、ある面では一般的な道徳と共通するに違いない。しかし、商人だけに適用される道徳なんてものはないのだ。