CO2が発生しない!? 金属を「燃やして」電気を作る
●金属エネルギー
再生可能というわけではありませんが、少なくとも二酸化炭素やNOx、SOxを発生しないエネルギーとして、最近、金属の発生するエネルギーが注目されています。一般に金属は燃えないというイメージがありますが、それは間違いです。多くの金属は燃えます。鉄だってスチールウールを酸素の入った広口瓶に入れ、マッチで火を着けたら激しく燃えます。これは鉄をウール状にすることによって表面積が大きくなり、酸素に触れる面積が多くなっただけのことで、鉄が特別の状態になったわけではありません。
また近年、マグネシウム倉庫やマグネシウム工場で火災が起きています。このような金属火災では水をかけると爆発的に燃え広がります。燃えている金属に水をかけると爆発するのは、金属が水と反応して水素ガスH2を発生するからです。洗面器の水に米粒ほどのナトリウム金属を入れると、水より軽いナトリウムは水面をチリチリという音を発して動き回り、ボンッという爆発音と火花を発して消えます。危険な実験ですが、これはナトリウムが水と反応して水素ガスとともに熱を発し、その熱によって水素ガスが爆発したことによります。
ほかにも、福島第一原発事故で起きた水素爆発は、使用済み核燃料の被覆体(ひふくたい)であるジルコニア(ジルコニウムZr合金)が高温で水と反応して水素を発生し、それに火が着いて爆発したものでした。
ところで、熱は立派なエネルギーです。そして水素は水素燃料電池の燃料であり、昔は都市ガスの成分として各家庭に配られていたものです。つまり、金属と水との反応は、エネルギーを生産した上に新たな燃料(H2)まで生産するという、魔法の原子炉、高速増殖炉のようなものなのです。
●爆鳴気エネルギー
水素と酸素を2:1に混合した気体は爆鳴気(ばくめいき)としてよく知られています。これに火を着けたのが水素爆発であり、轟音(ごうおん)とエネルギーが発生し、大変に危険な気体です。水を電気分解すると水素と酸素が2:1の比で生成し、この爆鳴気が発生します。これでは危険なので、水の電気分解を行なう時には正極と負極を隔離し、正極室には酸素のみ、負極室には水素のみが分かれて溜まるようにし、両気体が混じらないように注意します。
ところが、ある条件下で水を電気分解して生じた爆鳴気は火を着けても爆発せず、普通のガス(都市ガスの天然ガス)と同じように定常燃焼し、しかも火力が大変に強くなります。この気体の組成を調べると、水素、酸素の他に水のクラスター(会合体、集合体)が混じっているそうです。水のクラスターとは、数個の水分子が水素結合で結合した集合体のことです。
この気体の安定化には、水のクラスターが何らかの働きをしているのでしょうが、現在のところ詳細は不明です。確立したように見える既存の技術の中にも、隠れた可能性があるという例です。
●宇宙でエネルギーをつくる
宇宙空間を利用して、効率的な太陽光発電を行なおうという考えがあります。高度4000万㎞ほどの高度に静止衛星を打ち上げ、そこで巨大な太陽電池を広げるのです。静止衛星ですから、常に太陽の方向を向き、しかも気候に左右されず、24時間体制で発電可能です。太陽光も大気で減衰(げんすい)されませんから、エネルギーは十分です。
発電した電力はマイクロ波で地上に送ります。また、この太陽電池と地球をケーブルでつないで電気を送ろうとのアイデアもあります。この場合のケーブルは、軽くて強い新素材であるカーボンナノチューブでつくることが計画されています。いまだ実験段階であり、実現は先の話ですが、試算では25万kwの発電施設で80~150億円程度だそうですから、火力や原子力の場合の2倍程度のコストになりそうだということです。
最も近い星は地球の衛星である月です。アポロ宇宙船に乗った人類が月に第一歩を刻んだのは1969年のことでした。その後の半世紀間、月に降り立った人類はいませんが、アポロが持ち帰った岩石の分析により、月には地球上にない資源があることが知られています。それはヘリウム3、つまり3Heです。
3Heは宇宙線に含まれており、大気のない月面で堆積したものといわれています。3Heは核融合反応の重要な燃料と考えられています。核融合反応の燃料として重水素Dや三重水素Tを用いるD-D反応やD-T反応では、副生成物として危険な中性子が発生します。しかし、重水素と3Heを用いるD-3He反応では中性子が発生しません。このように、将来は地球以外の天体から運んだ燃料で発生した電力で地球エネルギーを賄う時代が来るのかもしれません。
齋藤 勝裕
名古屋工業大学名誉教授
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