暖流の黒潮と寒流の親潮…海水の温度差を利用する
地熱発電の海洋版。深さによって異なる海水の温度差を利用しての発電。
地殻の温度が深さによって変わるのは、地熱発電で見た通りです。地表は20℃でも、マグマは1000℃以上、マントルでは数千度にもなります。温度が変わるのは地殻だけでなく、海洋水も同じです。日本近海でも水温の高い暖流の黒潮と、水温の低い寒流の親潮が流れています。黒潮は年によって海流海域を変え、それによって日本の気候が大きな影響を受けます。
しかし、海洋水の循環はこのような海の平面だけではありません。海水は垂直方向にも循環しています。つまり、太陽の熱で暖められた海面の水は、やがて太陽光の届かない深くて冷たい海底に沈み、深い海底の海水は海面に来て太陽の光にさらされるのです。
●深層大循環を活用する
深層大循環と呼ばれる海水の循環があります。これは海水の垂直方向、すなわち上下方向の循環です。海洋表面を流れた海水はグリーンランド沖で海底深くもぐり込み、海底を巡回したあと、インド洋とベーリング海で再び表面に浮かび出ます。この海水の移動速度は大変に遅く、深海では毎日10㎞程度、上昇と下降の速度は毎日1㎝程度であり、約500年かかって2000m以深の海水が入れ替わるといわれています。
このように海水の温度は深さによって変化し、赤道付近の海面で平均26℃、水深500mでは7℃、つまり温度差20℃近くとなっています。この温度差を利用して発電しようというのが海洋温度差発電です。装置の模式図は図表2に示した通りです。
すなわち沸点20℃程度の適当な溶媒をポンプで海底に送って冷却します。それを海面に送ると、海面の高温(26℃)で溶媒は気化して気体となります。この際の体積膨張を利用して発電機を回すのです。水蒸気の圧力で発電機を回すのと同じことです。仕事を終えた気体状態の溶媒は、再びポンプで海底に送られて冷やされて液体となります。
この発電は「小さな温度差を利用しての発電」です。ということは、このシステムを利用すれば、次節で見るように今まで役に立たないとして棄てられてきた小さな熱エネルギーをも利用できることを意味するのです。
廃熱発電は「もったいないエネルギー」
◆廃熱発電◆
工場の温排水、発電所の温排水を利用した小規模な発電。
現代のエネルギー工学は、大量エネルギーの利用には優れていますが、少量エネルギーの利用には疎(うと)いところがあります。原子力発電や超臨界水発電のような、温度差の大きい大量の熱を利用することはできても、火力発電所や原子力発電所、あるいはゴミ焼却施設から出る冷却排水はもとより、家庭から出るお風呂の排水、料理店から出る排水などの利用はできていません。
原子力発電所でも原子炉から出る数百度の熱は水蒸気発生のために利用しますが、タービンを回したあとの数十度の温水は海水で冷やして捨てています。このような生ぬるい温水は工場からも排出されますが、その利用は一向に注目されていません。これは不当といわざるを得ません。
●低温熱エネルギーの見直し
20℃程度の温度差ならば、身の回りにたくさんあります。大規模なものなら前節で見た海表面と深海の温度差があります。原子力発電所の冷却水も、火力発電所や一般工場のボイラーの冷却水も同じです。小規模のものなら、レストランの厨房の排熱や一般家庭の風呂のお湯だって同じです。
このような温度差を有効利用しない手はありません。電力不足の最近になって、ようやく低温熱エネルギーの見直しが始まろうとしています。その一つが前節で見た、海表面と深海との温度差「わずか20℃」という小さな温度差でも、沸点20℃ほどの“適当な溶媒”を用いれば、「液体と気体の体積変化」を利用した発電が可能ということです。
熱は何℃であろうとエネルギーです。有機物には数十℃で気化し、体積を数百倍に膨張するものが多数あります。スチームは水だけがつくるものではないのです。エーテル、アセトン、フロンなど、有望な物質が出番を待っています。
私たちはエネルギー・インフレ時代を過ごしてきたように思えます。現在はそのツケが回ってきたようなものです。これからは小規模エネルギーの積み上げのような地道な努力が求められるでしょう。「もったいない」という精神を忘れたくないものです。それこそSDGsの精神といえるはずです。
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