新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの開発によって、耳にすることが多くなった「治験」という言葉。しかし関係者に詳しく話を聞く場があまりないため、謎のベールに包まれている部分も多くある。今回は治験コーディネーターとして勤務する菊池あかね氏に、仕事の内容と治験現場について語ってもらった。

「子宮奇形」の被験者との思い出

最初は全く分からないまま飛び込んだ治験業界であったが、コーディネーターとして働きはじめて11年が経ち、たくさんのクスリ開発の現場をこの目で見てきた。

 

中でも印象に残っているのは子宮内膜症や子宮筋腫の治験だ。

 

同じ女性として、自分事にもなり得る疾患であり、被験者の多くが同世代ということで、印象深かった。

 

ある時、子宮奇形があると分かり、それもあって子宮内膜症を患い、過去にオペもしたが再発したという30代女性の被験者の対応をしたことがある。

 

彼女は、妊娠し子どもを産みたいという希望があったが、「まずは子宮内膜症の治療をしてから考えよう」と医師に言われ、その間社会貢献になるならと治験に参加していた。私はその時、子宮奇形というもの自体知らなかったのだが、その女性も同じで、たまたま行った検診で初めて分かったのだと教えてくれた。

 

私は、彼女の月経時の症状や痛み、経血量、などの経過を医師に報告するため、診察日以外でも、彼女と連絡を取った。月経には個人差があり、感じ方も違い、さらにデリケートな内容でもあるため、聞き取りが難しくもあるが、彼女はとても丁寧に説明してくれた。時には心の葛藤や不安なども打ち明けてくれたため、私たちには絆ともいうべき一体感が出来上がっていたように思う。

 

治験が終了して1年ほど経ったある日、彼女から手紙が届いた。中には、「治験終了後、治療は続いたけれど、後に妊娠し、出産も無事に終わり、現在は子育てを楽しんでいます」と書かれていた。

 

ほんの数ヶ月間ではあったけれど、彼女の人生の一部に関わることができたこと、また振り返った時に思い出してくださり、手紙をくれたことがとても嬉しかった。

新型コロナウイルスによる治験現場の変化

昨年からの新型コロナウイルス感染症の影響により、私たち治験コーディネーターも少なからず影響を受けている。

 

治験に協力いただいている被験者がコロナに感染してはいけないということで、来院を延期したり、やむを得ず投与をいったん中止したりするケースもあった。私たち自身も極力病院への出入りは避けるように言われることもあり、いつにも増して緊迫する状況の中で治験を進めている。

 

そんな中で、過去治験にご参加頂いた被験者さんは元気にしているかな、と思い出すこともある。病気と戦いながらも、治験に協力いただいた時間は忘れることが出来ないし、私の中で、直接的ではないがその人の命に関わった、という思いが、この仕事を続ける糧にもなっている。

 

治験コーディネーターという仕事は、新薬を通して未来の医療に貢献できるだけでなく、被験者の人生に触れられるところに学びがある。

 

今はまだマイナーな仕事かもしれないが、医療関係者や今後医療に関わる人の未来に治験コーディネーターという選択肢もある、ということを知ってもらえたら、と思っている。

 

 

菊池あかね

 

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