※画像はイメージです/PIXTA

相続争いは他人事ではありません。家族の仲が良くても、お金に困っていなかったとしても、相続するべき財産がほとんどなくても、「争族」は起きるもの。ここでは実際に起きた恐ろしいエピソードをご紹介します。※本記事は、一般社団法人相続終活専門協会の書籍 『プロが教える  相続でモメないための本』(アスコム)より一部を抜粋したものです。

仲良し兄妹が…なぜ母は何も残せなかったのか?

■もめごとなく収まった父親の遺産相続

 

「ごめんね。父さん、遺言を残していなかったの」

 

母の昌代は、父の死後、長男と3人の姉妹がそろった席で遺産分割について重い口を開いた。自宅敷地内の二世帯住宅に暮らす長男の良一は、母親をねぎらいながら3人の姉妹に話しかけた。

 

「お母さんが謝ることじゃないんだから気にしないでよ」「そうよ。お父さんが亡くなって一番つらいのはお母さんなんだから、そんな顔をしないで」

 

長女の裕子も母を慰める。つかの間、場は重い空気につつまれた。

 

末っ子で小さい頃から自由に育てられた三女の由美は、みんなの顔色をうかがいつつ、誰かが話を切り出すのを待っている。沈黙を破ったのは、4人の中で最もマイペースであまり空気を読まない次女の由紀子だった。

 

「要するに、どうやって遺産を分けるのかって話でしょ。遺言がないのに、みんなが文句ないように分けるには、どうすればいいのか決めればいいんでしょ」

 

「それはそうだけど、こういうのは初めてだからどうしていいかわからないの、ねぇ良一」

 

 

母が長男に目配せする。

 

「実は家族会議する前に母さんと話し合ったので、その内容を説明したいんだけどいいかな」

 

良一はそう言うとメモ帳を開き、全員に向かって説明を始めた。彼が説明した遺産分割の主旨は、残された父の遺産とその評価額を提示したうえで、自宅は長男が受け継ぎ、現金は3姉妹が1人当たり約1000万円ずつ分け、その他の不動産や株等の財産は母親が相続する――というものだった。

 

話を聞き終えて、由紀子は口を開いた。

 

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