「自然妊娠の可能性は極めて低い」と告げられ
避妊をやめてから半年ほど経ち、レディースクリニックで毎月エコーの検査をして、タイミングをとるべき日にちを教えてもらう「タイミング療法」を開始した。排卵日の前日に排卵誘発剤の注射をしてタイミングをとる。
それでも、妊娠することはなかった。
軽い気持ちで始めた「妊活」だったはずなのに、徐々に焦りが生まれてきた。
卵管造影検査や子宮筋腫の有無を調べるエコー検査、内膜症の検査もした。夫の精液検査もして、全て正常。
最初に「妊娠したい」と思ってから、1年弱が経っていた。
「不妊治療専門」のクリニックを受診し、「AMH(抗ミュラー管ホルモン)の数値を調べてみては」と言われたのが、その夏のことだった。
例年よりも暑い夏で、じっとりと汗をかいた背中には、効きすぎた冷房が寒いくらいだった。
AMHとは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンのこと。成熟して、排卵することのできる卵の数を推測できることから「卵巣予備能」を測る検査として、不妊治療の検査に用いられる数値。
女性は、生まれつき200万個の原始卵胞を持って生まれてきて、生涯作り続けられる男性の精子と違って、新たに造成されることはないのが特徴。年齢に従って卵胞の数は減ることから、「AMHの値=卵巣年齢」と指標される。
AMHが低いということは、「妊娠可能期(排卵している時期)が終わりかけている」とも考えられるということになる。
血液検査で比較的簡単に調べられるAMH検査の結果、私は「AMH値が極端に低く、自然妊娠の可能性は極めて低い」と告げられた。
「まさか私が」
タイミング法による不妊治療を開始していたものの、「行為」そのものは今までと変わりないため、不妊治療としての実感は、ほぼ全くと言っていいほどなかった。
「妊活をしている」という意識はあったものの「不妊治療」とか「不妊症」は、私にとっては他人事でしかなく、突きつけられた現実を、自分のことだと認識するには、時間が必要だった。
本当の意味での“不妊治療”の始まり
なぜAMH値が低いのか、は、厳密にはわからない。
体質的遺伝的に低い(そもそもの原始卵胞の数が少なかった)ということも考えられるが、20代までの生活習慣や食事内容、栄養状態も、大きく影響しているとか。
そして、何よりもショックだったことは、「AMHの値を増やすことはできない」ということ。
前述の通り、卵胞の数は増えることはなく、排卵の回数は決まっている。
「もし、子供を考えるなら、今すぐに治療に取りかかる必要がある」
自然妊娠はできない。
「子供なんて、いつでも産める」、「子育ては、人生の最後でいい」
ずっとそう言っていた。
ずっと、それでいいと思っていた。
でも、現実はそうじゃなかった。
それが、本当の意味での、私の不妊治療の始まりだった……。
山下 真理子