(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年5月13日に公開したレポートを転載したものです。

3―不動産サブセクターの動向

1.オフィス

三鬼商事によると、3月の東京都心5区の空室率は13カ月連続上昇の5.42%、平均募集賃料(月坪)は8カ月連続下落の21,541円となった。一方で、他の主要都市をみると空室率は上昇基調にあるものの[図表4]、募集賃料は大阪を除いて前年比プラスを確保している。コロナ禍の影響が全国のオフィス市況に広がるなか、調整幅は東京が最も大きくなっている。

 

[図表4]主要都市のオフィス空室率
[図表4]主要都市のオフィス空室率

 

成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は35,309円(前年同期比▲8.9%)となった[図表5]。

 

オフィス需要は2008年のリーマンショック後ほど落ち込むことはないとみるが、今後はオフィス床面積を見直す動きが本格化することが予想され、その動向を注視したい。

 

[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料

 

2.賃貸マンション

東京23区のマンション賃料は上昇基調にあるものの、前期比ではマイナスとなり、頭打ち感もみられる。2020年第4四半期は前年比でシングルタイプが+0.6%、コンパクトタイプが+2.7%、ファミリータイプが+1.3%となった[図表6]。総務省によると、東京23区の転入超過数は昨年5月以降マイナスに転じ、2020年全体では約+1.3万人(2019年+6.4万人)となった。今年に入ってもこの傾向は変わらず、1-3月累計の転入超過数は約+1.5万人と前年の4割の水準にとどまっている[図表7]。

 

[図表6]東京23区のマンション賃料
[図表6]東京23区のマンション賃料

 

[図表7]東京23区の転入超過数(各年の月次累計値)
[図表7]東京23区の転入超過数(各年の月次累計値)

 

3.商業施設・ホテル・物流施設

商業・ホテルセクターは、2度目の緊急事態宣言(1/8~3/21)を受けて厳しい状況が続いている。商業動態統計などによると、1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲8.3%、スーパーが▲0.8%、コンビニエンスストアが▲2.7%となった。宿泊旅行統計調査によると、1-3月の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲54.7%減少した[図表8]。

 

[図表8]延べ宿泊者数の推移
[図表8]延べ宿泊者数の推移

 

CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(3月末)は1.1%(前期比+0.6%)、近畿圏の空室率は1.9%(前期比▲1.8%)で、需給環境は引き続き良好である。

4―J-REIT(不動産投信)市場

2021年第1四半期の東証REIT指数は、昨年末比+12.8%上昇した[図表9]。新型コロナ感染拡大への警戒感は根強いものの、株式市場に対する出遅れ感などを背景に堅調に推移し、これで5カ月連続での上昇となった。3月末時点のバリュエーションは、NAV倍率が1.1倍、分配金利回りが3.6%となっている。

 

[図表9]東証REIT指数の推移(2020年12月=100)
[図表9]東証REIT指数の推移(2020年12月=100)

 

世界的な過剰流動性を背景に、不動産価格が高値で推移するなか、REIT各社は保有不動産の売却による投資主への利益還元を強化している。第1四半期の物件売却額は1,519億円となり、同期間として過去最高を記録した。その内容を見ると、売却価格が鑑定評価および帳簿価格を10%程度上回っており、鑑定評価以上の価格で売却することで売却益を計上し、内部留保の積み増しや分配金の引き上げに活用している。

 

ただし、不動産価値の源泉である不動産賃貸市場は調整色を強めており、今後は不動産キャッシュフローの減少圧力に留意する必要がある。

 

 

岩佐 浩人

ニッセイ基礎研究所

 

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