(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アーティストが生きる時代を鮮烈に体現する存在

■人が美術作品として買うなら、それは美術作品だ

 

当時は、まだまだ画家が精魂込めて一点ものの油絵を仕上げるのが当たり前の時代で、美術界から「シルクスクリーン印刷で大量に刷られた作品が果たして芸術といえるのか」との批判の声も集まりました。

 

そもそもウォーホルは、それまでの芸術家のように作品を「制作」していたわけではありません。自らのアトリエをファクトリー、つまり工場と呼んだことからもわかるように、彼は作品を工場でまさに「生産」するように制作していました。自己表現のためでなく、流れ作業のようにアートを大量生産していたのです。

 

メディアで量産され消費される人々の欲望を見える形で作品化したのがウォーホルだという。(※写真はイメージです/PIXTA)
メディアで量産され消費される人々の欲望を見える形で作品化したのがウォーホルだという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そうした批判の声にウォーホルは、こう反論しました。

 

「人が美術作品として買うなら、それは美術作品だ」

 

つまり芸術かどうかは、鑑賞する側が決めることだと彼は言うのです。デュシャンは既存の芸術を否定しましたが、ウォーホルは、芸術品とそうでないものの境界を破壊してしまいました。

 

ウォーホルは、マリリン・モンローがどんな人間で、どんな内面を持っているかといったことにまったく関心を示しません。表面的なイメージだけを量産します。大衆が望むステレオタイプなモンローのイメージをただ増幅し、皆が見たいと望むものを作品化しました。

 

目に見えない、しかし世界に渦巻いている人間の欲望こそが現代社会を動かしているものだというのが、ウォーホルの“考え”です。メディアで量産され消費される人々の欲望。それをはじめて見える形で作品化したのがウォーホルでした。

 

ウォーホルが登場してから、アートはさらに目の前の現実を対象にするようになり、多くの人々が向き合い、信じる大衆社会や消費社会といったものを相手にしました。

 

それまでの“世間に背を向けて孤独な世界に浸る芸術家”というイメージとはまったく異なったアーティスト像をウォーホルは提供します。

 

現代アートだけでなく、ロックバンドのプロデュースや映像表現などの幅広い活動を通して、アートからファッションまで影響力を持ち、若者たちが熱狂した60年代、70年代のニューヨークカルチャーのシンボルとなっていきました。それはスキャンダラスで、エキセントリックなものでした。

 

そもそもアートとは何なのか、ウォーホルは作品でデュシャン同様、私たちに問いを投げかけたのです。そしてアートは、アーティストの内面やアイデアを単に表現するものではなく、なっていきます。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

 

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