(写真はイメージです/PIXTA)

人類の歴史では貝殻やウイスキー、金など、さまざまなものが貨幣として使われてきました。経済アナリストの増田悦佐氏の著書『資産形成も防衛も やはり金だ』(ワック株式会社)より、一部を抜粋・編集して解説します。

価値は高いが…「宝石」が「貨幣」にならないワケ

■ファンジビリティが高い素材は通貨に適する

 

ファンジビリティとは代替性と分割可能性を合わせ持つ性質のことです。2つ目の価値の尺度という点では、大きな金額の中に混じっていても、小さな金額の中に混じっていても貨幣1単位の価値は変わらないことが重要です。

 

つまり、1万円の取引の中でどこから1万分の1にあたる1円を取り出してきても、300円の取引の中でどこから300分の1にあたる1円を取り出してきても、1円の価値にはなんの変化もないということです。

 

どう分割することも、寄せ集めることもできて、どんなかたちをとっていても2単位には1単位の2倍の価値があるというわかりやすい性質を、ファンジビリティと呼びます。

 

ファンジビリティがあるかどうかは、貨幣としての適性を測るためには非常に重要なポイントです。「当たり前のことだ。量り売りで買える商品はみんなそうじゃないか」とおっしゃるかもしれません。

 

ですが、それは、製造業の発展によって、商品の均質化がとても進んだ近代以降の特徴です。自然素材を貨幣に使っていた時代には、こういう条件を満たす素材はめったにありませんでした(関連記事『一家の家宝…「銀の食器」気が付いたら「真っ黒」の衝撃』)。

 

たとえば、特定の地方でしか取れない珍しいかたちの貝殻を貨幣として使っていた社会のことを思い浮かべてみましょう。大口取引で突然何千個とか何万個とかの貝殻を支払う必要が出てきたとき、同じような質の貝殻を揃えることができたでしょうか。

 

たぶん、小額の取引のときには使えないような質の悪いものまで総動員して支払うことになり、受け取る側は本来受け取れるはずの価値より価値が低い貝殻の山で折り合わざるを得ないことが多かったでしょう。

 

宝石の場合は、反対です。ダイヤモンドを貨幣として使っていた社会があったとしましょう。ダイヤモンドの大小は重さで量り、単位はカラット(0.2グラム)です。

 

1カラットの100倍、100カラットのダイヤモンドは、貨幣として1カラットのダイヤモンド100個分の購買力しかなかったでしょうか。そんなことはないでしょう。100カラットのダイヤモンドの希少性は、1カラットの100倍よりはるかに高いはずです。

 

そんなに購買力を低く評価されてしまったら、だれも大粒のダイヤモンドで取引しなくなるので、高額の取引自体がほとんどなくなってしまうかもしれません。

 

かと言って、10カラットのダイヤモンドの購買力は1カラットの30倍、100カラットのダイヤモンドの購買力は1カラットの1000倍というようなこみ入ったルールを作るのも、実用的ではありません。

 

価値の尺度として重要な「単純明快であること」という資格を失ってしまうからです。ダイヤモンドの重さが1カラット増えるたびに購買力はどのくらい増えるのか、とても複雑になります。

 

そうとう暗算が得意な人でも、重さの違うダイヤモンドをいくつか組み合わせて買ったものと、別の組み合わせで買ったものの比較では、どれがどれの何倍の価値があるのか、とっさには計算することができないでしょう。

 

歴史をふり返っても、宝石を貨幣として使った例はほとんど見当たりません。どんなに小粒でも価値が高すぎて、日常取引に気軽に使えなかったことが最大の理由でしょう。ただ、それとともに重さと価値がほぼ正比例で増えていく単純明快な性質を持っていなかったことも、大きな要因だった思います。

 

さらに、宝石のようにめったに取引されないものは、どういう経済・社会情勢のときに商品として市場に出るかによって、価格が大きく変動します。これも貨幣として使いにくい理由です。

 

 

増田 悦佐

経済アナリスト

文明評論家

 

資産形成も防衛も やはり金だ

資産形成も防衛も やはり金だ

増田 悦佐

ワック株式会社

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