(※写真はイメージです/PIXTA)

2021年6月9日、中米エルサルバドルの国会でビットコインを法定通貨とする法律が可決・成立しました。法律成立から90日後の9月7日以降、エルサルバドルではビットコインがあらゆる支払いに使えるようになります。ビットコインの「法定通貨化」がエルサルバドルや世界経済にもたらす影響について考察します。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

米ドルとの価格二本立てて、物価が不安定になるリスク

今後、エルサルバドル国内では、米ドルとビットコインの両方が法定通貨として使用され、商品の価格表示も、米ドル建て価格とビットコイン建て価格の二本立てで表示されることになるようです。

 

ところで、エルサルバドルは、小麦やトウモロコシのような食糧、原油などの燃料、自動車やコンピュータなどの工業製品を輸入に頼っているわけですが、これらの貿易は基本的に米ドル建てで行われています。

 

ですから、エルサルバドル国内で小麦粉や自動車の価格表示がされるときも、米ドル建て価格は大きく変動することはないでしょう。

 

しかし、ビットコイン建て価格は、ビットコイン―米ドルの相場に連動して、大きく変動することになります。ひょっとすると、それによってエルサルバドル国内でのビットコインの信頼が失われる可能性もありそうです。

不安定な自国通貨を持つ国が追随する可能性は?

エルサルバドルは、今回ビットコインを法定通貨として採用するずっと前の2001年から、米ドルを法定通貨としていたため、もともとインフレが抑制できています。

 

しかし、新興国や途上国の中には自国通貨の信用が著しく低く、インフレに苦しんでいる国が数多くあります。

 

たとえば2020年のインフレの年率を見てみると、トルコは12%、エチオピアは20%、アルゼンチンは42%、ジンバブエは557%、ベネズエラはなんと2355%にも達しています。

 

ビットコインは非常に変動が激しく不安定と思われがちですが、こうした国が発行する自国通貨に比べれば、安定していて信用できるという側面もあるのです。

IMFは「苦々しい思い」で見守るしかない現状

国際連合内の専門機関であるIMF(国際通貨基金)は、各国の中央銀行が集まり、金融政策を通じて、国際貿易の推進、安定した成長、為替の安定を目指す調整機関です。

 

確かにこれまでも、各国中央銀行が法定通貨を発行する原則から外れた例外はありました。米ドルを法定通貨にするエルサルバドルやエクアドルの例、複数の国が共同で通貨を発行するユーロなどです。しかし、これらの例外においても、IMFは、米ドルやユーロという通貨のコントロールは可能でした。

 

しかし、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にすることで、「IMFがコントロールできない通貨」が出てきてしまうわけです。

 

2021年6月10日、IMFのジェリー・ライス報道官は、「ビットコインの法定通貨採用は、マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を提起し、非常に慎重な分析を必要とする。われわれは動向を注視し、当局との協議を継続する」と述べました。

 

筆者はこのコメントから、「エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたことは非常に不愉快だが、これを否定する明確な論理もない」という苦々しい思いを感じ取りました。

 

ビットコインを法定通貨にするのがエルサルバドル一国であれば、先進諸国はエルサルバドルに融資するなどして、「法定通貨ビットコイン」を潰しにかかるかもしれません。しかし、他国も追随してきたら、IMFも否定しようがなくなるだろうと考えています。

 

以上、5つのポイントから、エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用したことで生じる今後の予測をしてみました。

 

エルサルバドルによるビットコインの法定通貨としての採用がどのような影響をもたらしていくか、今後に注目です。

 

 

小峰 孝史
OWL Investments
マネージングディレクター・弁護士

 

 

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