(写真はイメージです/PIXTA)

東京消防庁によると、65歳以上の高齢者が救急搬送される原因は、転倒事故が最も多いそうです。この記事では、介護付有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、地域密着型のグループホームを運営する株式会社三英堂商事の代表取締役社長・上村岩男氏が、「転倒事故」の要因と介護施設が行うべき対策について解説します。

高齢者が「ころぶ」原因は年のせいだけじゃない?

では、そもそも転倒事故はなぜ起こるのでしょうか。

 

まず第一は、加齢による心身面の変化です。年を取ると視力や筋力等が衰えるため、視野が狭くなり、体のバランスの保持が難しくなります。

 

また、認知機能や精神機能の低下により、注意力も散漫になります。そうしたことが要因となって、若いときよりも転びやすく、また体を支えにくくなり、転倒事故へとつながるのです。

 

また、第二は薬の影響です。高齢者には持病等の治療のために複数の薬を服用している人が少なくありません。

 

厚生労働省の調査では、在宅療養者のうち6種類以上の薬剤を処方されている人の割合が6割近くに達しています(『高齢者の医薬品適正使用の指針[各論編(療養環境別)]』(厚生労働省)より)。

 

薬の中には、高血圧の治療薬や睡眠剤のように立ちくらみやふらつき等の副作用を引き起こすものもあり、転倒の誘発要因となります。

 

第三に、生活環境が事故の原因となることも少なくありません。転倒が起こりやすい環境としては、敷居が高い、床が滑りやすい、夜間で薄暗く足下が見えにくい、玄関や階段に手すりがないなどが具体的に挙げられます(ほかにはカーペットのはしや延長コードに足をひっかけて転倒するケースもあります)。

 

また、環境に関しては、その変化も転倒リスクを高めます。「自宅→施設」「施設→自宅」「病院→施設」「施設→病院」などのように環境が変わると、新たな生活空間にすぐには適応できず転倒につながることがあります。

 

とりわけ、心身の状態が改善したので施設から自宅に戻ったような場合、自宅には施設のような徹底したバリアフリーの体制が整えられていないので要注意です。

転倒防止のキーワードは「ヒヤリハット」…施設の対策

これらの原因を踏まえつつ、施設側には転倒事故を防ぐために以下のような対策が求められることになります。まずはじめに情報共有の徹底が挙げられます。事故を事前に防止するため、入居者先生個々人の情報をスタッフ間でしっかりと共有しておくのです。

 

例えば「Aさんは薬の服用後にふらつきがみられる」などといった情報を共有しておけば、転倒リスクが特に高まる状況等を事前に意識できるので、早め早めの先回りの対応が可能となります。

 

それに関連して、ヒヤリハットの仕組みを導入することも効果的でしょう。ヒヤリハットとは重大な事故につながりかねない(「ヒヤリとした」「ハッとした」)事象のことです。

 

そうした情報についても報告書にまとめてスタッフ全員に配付するなどして事故防止につなげるのです。それから、転倒リスクの高い時間帯に居室の見回りを行うことも大切です。例えば、夜間はトイレに起き上がったりする際などに転倒事故が多く発生します。

 

そこで、入居者先生の就寝時にはベッドを見回り、転倒につながるような状況がないかなどを確認しておくのです。

 

なお、就寝時等の転倒リスクを防止する手段としては、ベッドに物理的な方法で身体を固定するという方法も考えられますが、こうした身体拘束を行うためには家族からの書面による許可・承諾が必要になります。

 

また、入居者の方々の心身面に与える影響も懸念されますし、個人の尊厳を害することにもつながりかねないので、個人的にはあまり望ましくないと思っています。

 

また、センサーユニットをベッド下の床面に設置して、入居者がベッドから起床すると、足の圧力でセンサーが作動して、スタッフに通報するシステムもよく採用される事故防止対策の一つといえます。

 

 

上村 岩男

株式会社三英堂商事

代表取締役社長

 

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本連載は、『人生の最後を「感動」で締めくくる! 介護施設選び5つのポイント』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・編集したものです。

人生の最後を「感動」で締めくくる! 介護施設選び5つのポイント

人生の最後を「感動」で締めくくる! 介護施設選び5つのポイント

上村 岩男

幻冬舎MC

高齢化が進み、人生100年時代といわれる今、介護施設の利用者は年々増え続けています。 介護施設の利用がごく当たり前となっている状況のなかで、高齢者やその家族にとって非常に大きなテーマとなっているのが施設選びを検討…

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