損失は低格付の「トランシェ」から被る形に
幾田 通常、商業不動産担保証券(以下CMBS)はいくつのトランシェに分けられるのですか?
マーク AAA格では、A1からA4に上位から優先されます。次にAS格というトランシェがあります。AAA格と同等の格付けですが、損失を計上する上ではAAA格より劣後します。以後、AA, AA-, A-, BBB-, BB, B 最後に無格付(エクイティ)へと格付けが下がります。
融資(ローン)比率(物件の価値に対するローン残額の割合のことで、Loan-To-Value:LTVと言う)は60%程度です。担保となる不動産価値の下落などによって損失を被る順序は、最初に最下位にあるエクイティが損失を被り、ローン部分にまで損失が広がると、低格付のトランシェから順に上位の格付けトランシェに損失が広がります。
例えば、1千万ドルの価値がある不動産を所有しているとすると、融資は6百万ドルとなります。よって、不動産価値が4百万ドル以上下落しない限り、ローン部分は損失とならないわけです。リーマンショック前の2006年,2007年あたりは、融資比率は80%に近くなっていました。クレジットエンハンスメントも、2007年当時と比べてAAA格では2倍になっています。ですから、リーマンショック前と比べ、エクイティの大きさは倍、AAA格トランシェのプロテクションも倍になったと言えます。
幾田 満期までの期間ですが、先ほど10年が典型的な償還期限とのお話でしたが、つまりCMBSの償還期限も10年ということですか?
マーク はい、その通りです。債券はローンから支払いを受けているからです。例えば、5年か7年で満期を迎えるローンがあったとすると、AAA格のA1からA4へと順に、5年満期のローンの返済分、7年満期のローンの返済分が支払われていき、最後に10年満期のローンが償還を迎える時に、その他すべてに支払われます。
投資適格のCMBSの流動性は社債などよりも高い!?
幾田 CMBSに投資する際、特定のトランシェを選択して投資するのですか?
マーク はい、特定のトランシェに投資します。各々のトランシェは個別証券のようなもので、社債と同様に売買します。
幾田 流動性はどうでしょうか?他の債券市場と比べて、参加者も少なく特異な市場であるという印象を受けますが、社債などと比べてどうなのでしょうか?
マーク スーパーシニアのトランシェ市場には、多くの投資家が参加しており、流動性は社債より高いです。例えば、1億ドルのスーパーシニア債を売っても市場に大きなインパクトは与えませんが、同額の社債やハイイールド債を売れば、市場は大きく動くでしょう。
確かに、格付けが下がるに従って、投資家も少なく流動性も低下する傾向にあります。しかしながら、総じて、投資適格のCMBSの方が社債より流動性は高いです。
幾田 リスクプレミアムの点からはどうですか?どの程度のスプレッドがあるのでしょうか?
マーク ビットアスクのスプレッドはスーパーシニア債で1BPT(ベーシスポイント)から3BPT、AA格で3BPTから5BPT、A格で5BPTから10BPT、BBB格で20BPTから25BPT程度です。
幾田 思っていたよりタイトなスプレドですね。CMBS市場は流動性も思っていたよりも高いですね。最近では高めのイールドを狙って、より多くの投資家がCMBSへの投資に興味を持っているのではと考えますが、その結果スプレッドがよりタイトになってきているのでしょうか?また、価格も割高になってきていると思われますか?
マーク 1月、2月頃は、流動性が低く、市場のボラティリティも高くなっていました。スプレッドもAAA格で3BPTから5BPT、AA格で10BPTから15BPTで、流動性のプレミアムも高くなっていました。投資家が戻ってきたのを契機に、市場の流動性が改善しました。
流動性の観点から、CMBSと社債の違いをあげると、特異なローンを担保に証券化されていることから、各プールがそれぞれ違っているという点です。もしもプールの中で、比較的規模の大きいひとつのローンがデフォルトになったとすると、当然その債券は市場の動きとは関係なく、イベントリスクを考慮した価格で売買されるでしょう。
ですから、担保になっている不動産の価値を正確に理解し、ローンのリスクを正確に評価することが、とても重要なのです。