米国有数の資産規模を誇る運用会社であり、世界各国の年金基金や機関投資家に各種運用サービスを提供するプリンシパル・グローバル・インベスターズ(PGI)。同社の不動産投資部門でポートフォリオマネジメントを統括するマネージング・ディレクター、マーク・ペーターソン氏にインタビューを行った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)のシニア・マネージャー幾田朋彦氏である。最終回は、商業用不動産担保証券(CMBS)をポートフォリオに組み入れる理由などがテーマとなる。

リーマンショック前に比べると市場環境は大きく変化

幾田 ちょっと視点を変えてお伺いします。私自身クライアントからよく質問されることなのですが、リーマンショック時のようなイベントが市場で起こった場合、商業不動産担保証券(以下CMBS)投資に対するリスクはどうなのでしょうか? 市場の環境はどの程度改善されてきているのでしょうか?

 

マーク 当時の市場環境と比較すると、引受業務の観点から2つの違いが挙げられます。ひとつは、融資比率(LTV)が現在非常に保守的なレベルであることです。2007年は、鑑定評価ベースで融資比率は70-75%、弊社の引受業務担当者の評価では平均80%でした。現在は、鑑定評価ベースで60%、弊社の引受業務担当者の評価では70%に満たない程度です。

 

 

もうひとつは、キャッシュフローが健全化したことです。2007年には、見積り額でローンを引き受ける業者が多く見られました。彼らは、不動産収入を高く見積もった予測収益に基づいてローンを引き受けていました。2007年には、クーポン支払額に対する不動産から得られる収入の割合は、見積りベースで1.25倍、実際には1.1倍程度でした。利払いの余裕度が非常にタイトでしたが、現在は2倍近いレベルまで上昇しており、キャッシュフローが改善されています。また、格付け機関の観点から話すと、クレジットエンハンスメント(損失吸収率)が上昇しています。

 

2007年にはAAA格のクレジットエンハンスメントは12%程度でしたが、現在は20-24%です。また、2007年と比較して、格付けが低くなるにつれ、クレジットエンハンスメントの数値が増えています。このように改善されたことから、今後、市場が低迷しても2007年と比べて、デフォルトは起こりにくいと考えます。

 

幾田 CMBSの格付け機関が、何かとお話の中で登場しますが、社債と同様、各トランシェの格付けの上げ下げも行うのですか?

 

マーク ええ、そうです。2009年には、多くのローンが格下げされました。年に一度レビューを行い、必要に応じて格付けを変更します。

リスク低減がポートフォリオに組み入れる理由のひとつ

幾田 伝統的な債券を保有している投資家にとって、CMBSをポートフォリオに組み込むことで、どのような分散効果が期待できるでしょうか?

 

マーク まず、より高い利回りの獲得が期待できます。一般的にCMBSは社債より高い利回り水準となっています。例えば、BBB格のCMBSの利回りは7.5-8%ですが、同格の社債は3.5-4%程度です。もうひとつは、分散効果です。15年間のパフォーマンス推移をみると、CMBSに対する社債、ハイイールド債、優先出資証券などの相関は0.6程度です。

 

最後に、リスクの低減です。先ほどもお話したとおり、リスクの査定や評価が保守的で、不動産市場も安定しています。今後2,3年の見通しは明るく、賃料水準ならびに稼働率は上昇し、不動産収益は好調だと見ています。この様な市場環境では、ローンのデフォルト率は低下するでしょう。一方で、社債におけるデフォルト懸念を払拭できない状況が続くと見られています。CMBSをポートフォリオに加えることで、追加リスクをとることなく、利回りの向上と分散効果が得られると言えるでしょう。

 

 

幾田 現状、利回りは社債に比べて高い水準にあるようですが、今後政策金利が引き上げになるとどのような影響をうけるのでしょうか?

 

マーク ほとんどのローンは期限前償還が出来ず、繰り上げ返済ができない仕組みになっています。例えば、2年間のロックアウト期間があり、その後から満期前までに返済をしたいとします。その場合、債務者は国債を購入し、国債でローンの複製化を図ります。そして、ローンの支払いには国債のクーポンが適用されます。よって、債券保有者の立場からみると、キャッシュフローに何ら違いがないわけです。期限前償還リスクがないという点は、住宅向けのローンと大きな違いです。

 

幾田 では、最後の質問となりますが、今後CMBS投資にとってどのようなイベントがリスクとなりえるのでしょうか?

 

マーク 実質をともなわない過度な金利上昇です。債券価格だけでなく、債務者(借り手)のローン返済能力に対しても大きな影響を与えます。2007年は、10年ローンの利率は6%でした。これらのローンは昨今満期を迎えていますが、4.5%-5%程度でリファイナンスしています。低い利率でのリファイナンスですから、何ら問題ありません。しかし、金利が上昇するとリファイナンスが非常に難しくなります。景気上昇にともなって不動産収益も伸びているようであれば、それほど問題になりませんが、景気がふるわない中で短期的に金利が上昇すると、債務者の負担が大きくなります。

 

もうひとつのリスクは、景気後退と需要の低下です。アメリカにおける過去2回の景気後退時の低迷市場は、90年始めは供給過多、2008年から2009年にかけてはレバレッジ過多によるものでした。現状、供給率は非常に低いレベルで推移しています。また、商業用不動産による負債総額はピーク時にはGDPの25%に達していましたが、現在は20%程度で、レバレッジも改善されています。ですから、次に起こりうるリスクは、需要の変化に起因するものになるのではと見ています。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、プリンシパル グローバル インベスターズ(PGI)およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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