米国有数の資産規模を誇る運用会社であり、世界各国の年金基金や機関投資家に各種運用サービスを提供するプリンシパル・グローバル・インベスターズ(PGI)。同社の不動産投資部門でポートフォリオマネジメントを統括するマネージング・ディレクター、マーク・ペーターソン氏にインタビューを行った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)のシニア・マネージャー幾田朋彦氏である。

オフィスビル、店舗、ホテルのローンを担保に証券化

幾田 CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities-商業不動産担保証券)にはまだあまり馴染みがない投資家も多いです。CMBSとは何かお話しいただけますか?

 

マーク CMBSとはオフィスビル、店舗、ホテルなど商業用不動産向けのローンを担保に証券化した債券です。もしも、10億ドルのローンがあるとすると、それに相当する不動産で担保されていることになります。格付け会社は、プールされたローンを審査し、AAA格から非投資適格へと信用度に従って格付けします。そして、ローンの信用度によって、各トランシェ(※1)のクレジットエンハンスメント(信用補完水準)がどの程度か判断します。

 

例えば、AAA格トランシェのクレジットエンハンスメントが20%だとすると、ローンに損失が発生した場合、その損失額がローン全体の20%に達するまではAAA格未満のトランシェが損失を負担するということです。つまり、トランシェに分けるということは、債券の格付に応じて、一定の損失水準までローンの損失から、各クラスの債券を守るということです。返済スケジュールを説明すると、毎月、ローンの借り手によって利息の支払いと小額の元本返済が行われ、満期時に多額の元本返済(バルーン返済)となるのが一般的です。

 

 

債券にプールされている全てのローンに対して支払われた元本返済金と利息が、債券の元金とクーポンとなります。概ねこれらのローン・プールは、固定金利の10年満期で、プールに含まれるローンの入れ替えは行われません。一旦プールされ証券化された後は、これらの条件は変更されません。

 

債券の元利金の大半は満期時に返済され、リファイナンス(借り換え)が行われます。リファイナンスの際には、一旦元金を受け取り、それが債券に支払われます。CMBSには分配順位が契約によって定められており、元利金を受け取ると、最初に最も高格付けの債券に支払いが行われ、そして、次の上位債券へとお金が流れる優先劣後構造となっています。反対に、損失は下位の債券から順番に上位債券へと、下から吸収されていきます。ローンの金利として受け取ったものは、 AAA格から順に債券のクーポンとして支払われます。債務者が返済を怠らない限り、この様に資金が流れる仕組みになっています。

 

一方、返済が滞るとデフォルトとなり、第三者であるスペシャル・サービサー(債権回収専門業者)が対象となったローンに対する措置を行うことになります。選択肢はいくつかあります。ひとつは、ローンの解除です。スペシャル・サービサーは担保となっている不動産を売却し、得た資金を債務の返済にあてます。もしくは、償還期限の延長、ローン元本の減額、クーポン率の引き下げなど、ローンの条件を変更します。スペシャル・サービサーの役割は、ローンの現在価値を最大化し、投資家にとって最良となる債権回収プランを策定することです。

CMBSにプールされるのは約50~100のローン

幾田 CMBSにはどのくらいのローンがプールされているのですか?

 

マーク 概ね50から100のローンがプールされます。上位10のローンがプール全体(元本総額)の40%から50%を占めます。規模の大きいローンが、それぞれプール全体の3~5%を占め、上位10~15未満のローン金額は小額となります。

 

幾田 トランシェに分けるとのお話がありましたが、各トランシェの損失や返済はどのようになされるのですか?

 

マーク AAA格のトランシェでは、AAA格の債券が3~4の異なるクラスに分けられます。各クラスはローンの残存期間に応じてA1からA4に決められ、A1クラスから順に返済金があてられます。ですから、同じ格付けのトランシェの中で、優先劣後性があるのです。

 

一方、損失においては、トランシェ内で均等に分けられます。最も上位のトランシェのクレジットエンハンスメントが30%、つまり損失吸収率が30%だとします。これは、AAA格よりも格付の低いトランシェがローン全体の30%まで損失を吸収するということで、低格付けのトランシェは、AAA格のトランシェが元本割れするリスクにさらされる前に、30%の実現損失を計上しなくてはいけないということになります。

 

 

つまり、AAA格のトランシェが損失の影響を受ける前に、他の全てのローンがデフォルトとなり30%の損失を受けることになる。もしくは、50%のローンがデフォルトとなり60%の損失を受けることになります。

 

デフォルトしたローンの割合とその損失額を掛け合わせたものが累積損失であり、その累積損失とクレジットエンハンスメントの比率の大小により、どの程度のプロテクションが付与されているかが決定されます。投資家としては、デフォルト確率に対価を支払うということになります。

 

損失のレベルを見てみると、1990年代初めのアメリカでの不動産不況時には、10年間の最大累積損失は8%を少し上回る程度でした。2008年金融危機からの脱脚時においては、予想累積損失は12%から15%程度だったとみられています。

 

※1 トランシェ

フランス語で「ひと切れ」を意味し、ローンや証券化商品を、リスク別など特定の条件で切り分けたものをさす。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、プリンシパル・グローバル・インベスターズ(PGI)およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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